でんでんむしになったら、何もかも忘れてしまうらしい。
楽しかったことも、嬉しかったことも、みんなのことも。
としくんは怖くなる。
としくんはうずくまって、泣いてしまった。
「だいじょうぶだよ」
気づくとそこには、おおきなでんでんむしがいて、ぼくに寄り添ってくれた。
「でんでんむしは、昼も夜も、晴れの日も雨の日も、街の中をいっぱい探検するんだよ。
それはとってもたのしいんだ。つらいことなんて、一つもないんだよ。
人間だったことも忘れちゃったけど、つらいことだって、かなしいことだってわすれちゃったんだ。」
としくんは、それまでのかなしい気持ちがすーっと消えていった。
それから、としくんはみんなにさよならをした。
からだがでんでんむしにかわっていっても、怖くはなかった。
そして、としくんは、いろんな人に見送られながら、でんでんむしとして旅立ったのでした。
~~
この絵本を読み聞かせられるのも何回目だろう。
そんなことを思いながら、ぼくは絵本の朗読を聞いていた。
4時間目には授業の一環で、小学校に併設されている「しずくの家」に遊びに行った。
「今ここにいる子たちは、カタツムリさんになる最初の段階で、まだ人間としての記憶がしっかりしているんです。
なので、みんなと変わらずにおしゃべりもできるし、お友達のこともしっかり覚えています。
もう少しして、体の殻以外の部分や、頭の方もカタツムリさんに近くなってくると、この奥のお部屋で静かに過ごします。
なので、奥の部屋には、皆さんは入ることはできません」
あと少しで「しずくの家」の一員になるひろみちゃんは、その説明を誰よりも真剣に聞いていた。
説明を聞きながら「しずくの家」の子達を見ていると、その中に春道くんがいるのに気が付いた。
春道くんは、半年前まで同じ集団登校班の副班長をしていた5年生だった。
その後、「しずくの家」のみんなと歌を歌ったりお楽しみ会をしたりした後の自由時間で、ぼくと優斗は春道くんと話をした。
春道くんは、”専用の”服を着てても分かるくらいに背中の殻が大きくなっていて、なんとなく目も少し小さくなっている気がした。
「もう少ししたら記憶もなくなっていくと思う。そうなったら本当にお別れだね」
そう言って微笑む春道くんに、僕は思い切って尋ねてみた。
「春道くんは、怖くないの?カタツムリになること、怖くないの?」
「大丈夫。怖くないよ」
そういった春道くんの目は、すこしだけうるうるとしていた。



























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