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妖怪・風習・伝奇

焦慮バッタさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

形代
長編 2026/06/23 22:31 179view

葬儀会場に戻ると、私は僧侶と向かい合った席に再び座らされると、もう逃がさないと言わんばかりにその周囲を大人たちが輪を作って完全に囲った。
その異様な光景の中で僧侶の呪文が響き渡る中、私は幼稚園の年長の時に友達と「かごめかごめ」をして遊んだことを思い出していた。
「そういえばあの時もこんな感じだったっけ・・・」
当時は、その直後に些細なことで友達と激しい喧嘩をして、幼稚園の先生や母親にも叱責されたのだが、今はそれすらも懐かしく感じる。
祖父が最後に言っていたのはこういうことだったのだろうか。
再び激しい頭痛が襲う。
薄れゆく意識の中、私はサメのぬいぐるみを抱きしめながら祈るように身を前に倒した。

「こんなことはやめなさい」

その瞬間、葬儀会場全体に、明らかに僧侶とは違う声が響いた。
会場が静寂に包まれる。

「こんなことをするのは、もうやめなさい」

低く、重厚感のある声。
祖父の声だった。
それは、私の胸に抱かれていた、祖父に買ってもらったサメのぬいぐるみから聞こえていた。

しばらく息を飲むような静寂が場を支配した後、至る所から啜り泣く声が聞こえてきた。
それは祖父との本当の別れを惜しむものだったのか、あるいは自分達の罪業を自覚し、狼狽するものだったのかは今でも分からない。

異様な雰囲気に包まれた葬儀会場の中で私は暫し呆然とした後、助かったという安堵と祖父の優しさに最後に触れられた喜びに、密かに涙を流した。
「お爺ちゃん、ありがとう・・・」

あの後のことはよく覚えていない。
気が付いたら遺族用の控室のソファに寝かされていた。

「どう?気分は大丈夫?お葬式中に急に倒れちゃって、今までここで安静にしてたの。」
そう言う母の顔は心配しているようでありながら、どこか目が泳いでいるようにも見えた。

横に置いてあったサメのぬいぐるみを手に取ると、仄かに湿った質感がした。

それから時は過ぎ、私は現在高校生になった。
母親に当時の出来事について話そうとしても、悪い夢でも見ていたんだろうの一点張りでまともに取り合おうとしなかった。

あの衝撃的な出来事は全部夢だったのだろうか。
いや、そんなはずはない。
当時大人たちに取り押さえられたときにできた腕の赤みは、それからもしばらくの間残っていた。
あの奇妙なお経から逃げている時のアスファルトの感触、雨の匂い、そして、連れ戻される車内で微かな煙草の匂いと共に感じた絶望感まで、今でも鮮明に覚えている。
教室が静まり返るたびに、学校で式典があるたびに、突如としてあのお経とも呪文ともつかない奇妙な言葉の羅列が聞こえてくるのではないかという強烈な不安に駆られるのだ。
中学3年生の時に親友が事故で亡くなった時は、とうとう葬儀に参列する勇気を出すことができなかった。
同級生たちが皆出席している中で、一人自室に閉じこもってひたすら泣いていた。
嘘なわけが、ないのだ。

3/4
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