程なくして、さっきとは違う僧侶が入って来るや否や、他ならぬ私に対して口を開いた。
「春樹くんはこちらの椅子に座ってください」
いつの間にか、棺と参列者の間にある僧侶用の椅子は、参列者に対して横向きに置かれていて、それと向かい合うようにしてもう一つ椅子が用意されていた。
その時、自分の中に初めて明確な疑問を抱いた。
しかし、会場にいる全員からの刺すような視線と沈黙に対して、その疑問を口にする勇気は持てずに、言われるがまま、誘導されるがままに僧侶と向かい合った椅子に座った。
僧侶は私の前に座ると、さっきのものとは違う、おおよそ聞いたこともないようなお経を唱えだした。
それは、不気味な声質や文言からして、お経というよりも呪文といった方が正しいかもしれなかった。
参列者の方を見ると、全員が手を合わせる訳でもなく、目を見開いてただただこちらを凝視していた。
お経が始まってしばらくすると、少しずつ頭痛を感じるようになってきた。
最初は微かなものだったそれが、時間が経つにつれてより激しく、頭蓋全体に広がっていった。
それはまるで、自分の意識全体が頭から脱しようとしているかのように感じられた。
頭痛に悶え苦しみながら参列者の方を見ても、彼らは相変わらずただただこちらを見つめている。
明らかにおかしい。
これはお別れ会ではない。
だとしたら何?
自分は今何をされていて、これからどうなってしまう?
「逃げろ」「逃げろ」「逃げろ」
とどまることを知らず力を増していく激痛と共鳴するように、自分の本能が警戒音を発した。
「逃げろ!」
その瞬間、私は椅子から立ち上がり、全速力で駆け出した。
葬儀会場を支配していた静寂が一斉に崩れ、騒めきだした。
葬儀場を抜け出した私は全力で走った。
遠くの方から喪服姿の大人数名が走ってくるのが見えた。
自分の身に何が起こったのかもわからない中、必死に走った。
葬儀場に連れ戻されることだけは避けなければならないという、現状での唯一解のみを指針にして、小雨の中を、サメのぬいぐるみを抱えながら全力で走った。
ペトリコールが鼻を劈く。
酸素が極限まで欠乏した肺の中に充満する。
この場合、どこへ行けばいいのだろう。
自宅には帰れない。母親も向こう側の人間であることは明白だ。
警察に行く?警察に行ったとしてなんと説明すればいいのか。
急変した状況の中で、祖父を失った悲しみはとうに鳴りを潜めていた。























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