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妖怪・風習・伝奇

焦慮バッタさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

形代
長編 2026/06/23 22:31 149view

お経が始まってしばらくすると、少しずつ頭痛を感じるようになってきた。
最初は微かなものだったそれが、時間が経つにつれてより激しく、頭蓋全体に広がっていった。
それはまるで、自分の意識全体が頭から脱しようとしているかのように感じられた。
頭痛に悶え苦しみながら参列者の方を見ても、彼らは相変わらずただただこちらを見つめている。
明らかにおかしい。
これはお別れ会ではない。
だとしたら何?
自分は今何をされていて、これからどうなってしまう?

「逃げろ」「逃げろ」「逃げろ」

とどまることを知らず力を増していく激痛と共鳴するように、自分の本能が警戒音を発した。

「逃げろ!」

その瞬間、私は椅子から立ち上がり、全速力で駆け出した。
葬儀会場を支配していた静寂が一斉に崩れ、騒めきだした。

葬儀場を抜け出した私は全力で走った。
遠くの方から喪服姿の大人数名が走ってくるのが見えた。

自分の身に何が起こったのかもわからない中、必死に走った。
葬儀場に連れ戻されることだけは避けなければならないという、現状での唯一解のみを指針にして、小雨の中を、サメのぬいぐるみを抱えながら全力で走った。
ペトリコールが鼻を劈く。
酸素が圧倒的に欠乏した肺の中に充満する。
この場合、どこへ行けばいいのだろう。
自宅には帰れない。母親も向こう側の人間であることは明白だ。
警察に行く?警察に行ったとしてなんと説明すればいいのか。

急変した状況の中で、祖父を失った悲しみはとうに鳴りを潜めていた。

気が付けば、喪服姿の男たちはすぐ後ろまで迫っていた。
距離が急速に縮まっていく。
小学3年生の男子の中でも下から数えた方が早い脚力しかなかった私が、大人たちに追いつかれ、取り押さえられるのにそう時間はかからなかった。
大人の腕力で体を完全に固定化され、間もなく迎えに来た車へと乗せられた。
車の中では、あまりの恐怖に泣き叫ぶ私を、叔父が優しい顔で宥めた。
前の春休みに従兄と釣りに連れて行ってくれたあの時と全く変わらない表情で。
「大丈夫。すぐに終わるからね。」
その一方で、私の体を拘束する腕力は少しとして弱められることはなかった。
「これで、偉大なあのお方も少年の姿でこの世に舞い戻られるんだ」
絶望のさなか、助手席と運転席での会話が聞こえてきた。

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