「どう?気分は大丈夫?お葬式中に急に倒れちゃって、今までここで安静にしてたの。」
そう言う母の顔は心配しているようでありながら、どこか目が泳いでいるようにも見えた。
横に置いてあったサメのぬいぐるみを手に取ると、仄かに湿った質感がした。
それから時は過ぎ、私は現在高校生になった。
母親に当時の出来事について話そうとしても、悪い夢でも見ていたんだろうの一点張りでまともに取り合おうとしなかった。
あの衝撃的な出来事は全部夢だったのだろうか。
いや、そんなはずはない。
当時大人たちに取り押さえられたときにできた腕の赤みは、それからもしばらくの間残っていた。
あの忌まわしい儀式から逃げている時のアスファルトの感触、雨の匂い、そして、連れ戻される車内で微かな煙草の匂いと共に感じた絶望感まで、今でも鮮明に覚えている。
教室が静まり返るたびに、学校で式典があるたびに、突如としてあのお経とも呪文ともつかない奇妙な言葉の羅列が聞こえてくるのではないかという強烈な不安に駆られるのだ。
中学3年生の時に親友が事故で亡くなった時は、とうとう葬儀に参列する勇気を出すことができなかった。
同級生たちが皆出席している中で、一人自室に閉じこもってひたすら泣いていた。
嘘なわけが、ないのだ。
「今日は模試があるんだよね?もう来年から受験生だもんね。頑張ってね!」
今日の朝も、母は私に弁当を持たせ、明るい声でそう言った。
物心ついた時から今に至るまで、母は理想の母親であり続けた。
あの日以外は。
間違いなく私の内面を祖父と入れ替えようとする悍ましい集団の一人だった、あの日以外は。
「ん、頑張る。5時くらいには帰るから。
じゃあ、行ってきます」
私はそう言いながら靴を履き、玄関の扉を開けた。
どこにでもいるような、仲のいいごく普通の親子の光景だ。
私は今でも、あの時の悄然とした目と、私に向けて微笑んでいる、据わった穏やかな目が全く同一の目だという事実を受け入れられないでいる。

























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。