昨日の夜、俺の寝室の隅から女のすすり泣く声が聞こえてきた。
最初は気のせいだと思っていたが、その声がだんだんと近づいて来るのがわかって、家を飛び出した。
結局、駅前のネカフェで夜を明かして、不動産屋の開店と同時に文句を言いに駆け込んだ。
俺が「女の幽霊が出た。 事故物件だろ!」とまくし立てると、対応してくれた若い男は面食らっていたが、事情を話すとパソコンを操作し始めた。
見る間に顔が強ばっていったが、奥から出てきた上司らしき男と交代した。
「お話は伺いました。 結論から申し上げます。
お客様のお部屋は事故物件ではございません」
交代した男はにこやかな営業スマイルだった。
しかし、俺としてもこれで引き下がる訳にはいかない。
女の声が聞こえたのは事実だし、あんな部屋で平穏な生活なんて送れないからだ。
「俺の前に誰かが住んだから、告知義務がないとかいうやつですか?」
聞きかじりの知識だが、俺に言えることはこれしかなかった。
「いえ、お客様のお部屋は建築以来、誰もお亡くなりになっておりません」
「でも、実際、女の泣く声が聞こえたんですよ」
あれは確かに部屋の中だった。
耳元とまではいかないが、それでも近くで、はっきりと聞こえていた。
「それは右隣のお部屋で服毒自殺した女性ですね」
パソコンの画面を確認して男が言った。
「隣のやつが俺の部屋に出るなんておかしいでしょ」
「そのようなことを申されましても、幽霊がどうするかまでは我々ではどうにもできませんので」
少し困ったような口ぶりだが、顔は相変わらずの営業スマイルだった。
結局、何を言ってもラチがあかず、苛立ちながらも俺は不動産屋を後にし、部屋に帰ってきた。
ドアを開けると、天井からスーツを着た男の下半身が生えてゆらゆらと揺れていた。
俺はドアを閉め、すぐに不動産屋に電話をした。
すぐに繋がり、さっき対応してくれた男に代わってもらった。
「あのさ、天井から男の足が生えてるんだけど?」
「男性ですと……真上のお部屋で首を吊った男性のどちらかですね」
訳の分からないことを言った自覚はあったが、淡々と返事が返ってきた。
俺は黙って電話を切った。
























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