聞いてる人達は、そんな音聞こえてないみたいで、相変わらず拍手したり動画撮ってたりしてる。
続けてもう一曲歌い終わった頃、トモはウトウトしてきたみたいで、窓際のイスへの方へ移動してから寝てしまった。
まぁ結構飲んでたし、ジュンさんの歌聞けたのが嬉しかったんだろうからね。
俺もそろそろ切り上げようかなって思ってたから、空になったグラスを返して、酔い覚ましのチェイサーを頼んだ。
「あぁ。楽しかったー!」
ジュンさんは席に戻ってすぐに、残っていたサワーを飲み干した。
どうやら新たにファンを獲得したみたいで、あちこちの席で一緒に写真撮ったり、握手してたりしてたようだ。
「お疲れ様です。みんなを圧倒させましたねー。アイツなんかジュンさんに感動し過ぎて気絶しましたよ」
多少大げさだったと思うけど、俺は隅で寝ていたトモを指さしながらライターを取り出した。
ジュンさんは箱からタバコを2本取り出して、1本を俺に差し出しながら
「ねぇ…これは秘密なんだけどね。」と、話し始めた。
いつの間に帰ってきたのか、その向こうに藤村さんが座っていた。前の並んだ酒瓶を見つめながら、相変わらず黙ってロックグラスを傾けている。
「アレ、私の声じゃないんだ…この人の歌なの」
右手にタバコを挟んだまま、呆気にとられている俺をよそにジュンさんは、その白い喉元に指をトントンと置いた。
「地元の小さな川にいたの。それから、ここで飼ってるのよ。レッスンなんていらない。この人が代わりに歌ってくれるから」
日付はもうそろそろ変わる時間になってたけど、相変わらず店内は騒がしかった。
それなのにその声は、何故かそれだけ独立してるみたいに、本当に響くように聞こえていたんだ。
「もちろん、誰にも言わないでね。私も困るし…君も困るもんね。」
車窓の外の流れる光を見ながら、隣のトモが口を開いた。
「なんか…。ずっと変な夢見てたわ…」
ガラガラの電車内で、水を口に含んでから、トモは弱々しく続けた。
「今日、めちゃくちゃ楽しかったんだよ。なんつーか、異常なくらいさ…」
「俺…寝ちゃったじゃん?ジュンさんの歌聞きながらさ。そしたら俺の足元に水が広がってきて…。」
俺はトモの方に目をやった。トモの目の下には、泥を塗りつけたような深いクマができていた。
「水がどんどん上がってきてさ…。でも何か逃げられなくて。むしろ、早くその中に飛び込みたくなって。」
「ジュンさんの歌声も、どんどん大きく聞こえてきてさ…。抗えないような、もっと聞きたいっていうかさ…。」
「多分、天国に行くときって、あんな気持ちなのかもしれん…。俺、もしかしたら…」
~今日もJR九州をご利用くださいまして、ありがとうございます。次は、こうざき、こうざきです。お出口は、左側です…~
無機質なアナウンスの声に遮られて、トモが最期になんて言ったのか分からなかった。

























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