少しがっかりした気持ちで、コンクリートの基礎部分から足をおろした時、私が来た方向から車のライトが見えた。
車はこちらに向かってくる。道なりではなく私に向かってくる。あの車もスリップを起こしていた。
私は慌てて自分の車の影に隠れた。
その車は私と同じように、欄干に正面から激突したのだが、くるりと進行方向へ向きを変えて何事もなかったかのように走り去っていった。
そうはならないだろと、呆然としながら見送っていると、あとから2・3台の車が広めの車間距離を取って、ゆっくりと走り去っていった。
寒さもあって車に乗り込んで待っていると、ルームミラーに赤いライトが映りこんだ。
「さっきの誰かが通報したな。」
あわよくば、そのまま帰れると思っていたがそうはいかないようだ。
警察が到着すると、現場を見ながら色々と話を聞かれた。
欄干のところで話をしていると、坂の方からものすごい衝撃が響いた。
見ると横転した1トントラックが坂の方から滑って来ている。
現場の状況が一変し、警察は乗客の救助へと走って行った。
無線でのやり取りが聞こえてきて、乗っていたのは老夫婦。2人とも流血していて、意識もハッキリしていないと。
当然、私の相手どころではなくなり、警察からも今日は帰っていいと言われた。
騒動で気が付いていなかったが、父がレッカー車と共に現場近くまで来ていて、レッカー車の運転手にあいさつとレッカーのお願いをして、私は父の車で家に帰ることになった。
家に着くと、母が青い顔をして出迎えてくれた。
そして、母が私にかけた言葉は事故を起こしたことへの慰めの言葉などではなく、安心している私を再び恐怖に突き落とすものだった。
「あんた、連れていかれるところだったんだよ。」
自殺の名所で事故を起こしたから、そこに住まう霊に連れていかれそうになった。
オカルト好きな方ならこう解釈するだろう。
だが、この件に関しては半分正解で半分が間違っているとも言える。
連れて行くのは元々、橋にいる霊ではない。
実は私の地元には妙な迷信がある。
それは、この地域では昔から「一人が亡くなると、2・3人が続けて亡くなる。」というものだ。
その話を初めて聞いたのは、2歳ごろの事だった。
それは私の曽祖父が亡くなった時のこと。
まだ人が亡くなるということがしっかりと理解できなかった私は、広いコンクリートの玄関が革靴で埋め尽くされているのに興奮して、誰のものかもわからない革靴を玄関先へとかかる橋のような感覚で踏みつけ遊んでいた。曽祖父はかなり人望のある人だったそうだ。
不安定な靴の感触が楽しく、よろよろと玄関の外まで出た私は、今度は家の中に向かって靴の橋を渡ろうと体の向きを直した時、後ろから肩を掴まれた。
偶々、外にいた祖母に見つかってしまったのだ。
祖母は優しい笑顔で私に言う。
「連れていかれるから危ないことをしちゃダメだよ。」
何かに連れていかれるから、悪い事をしてはいけない。
この何かは、妖怪や幽霊など、色々な物が当てはまるが、所詮は子供に言う事を聞かせるための常套句だ。
私も単に注意されたくらいの感覚でしか聞いておらず、とりあえず素直に返事をした。


























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