こちら側は、遠藤が立ち入ってはならないと言っていたエリアである事は明白であったが、駿は夢中でそれどころではない。
ゴツゴツとしたガレ場を慎重に進み、登ったり下ったりしていると、真下に大きな淵が現れた。奥の方には小さいが滝も見える。
真下はプールのように深い淵が印象的であった。
雨の影響で若干霧が立っている事も手伝い、神秘的な雰囲気を醸し出していた。
すると、川の中で何かが蠢いているのが見えた。
魚にしては大きすぎる。
駿は雨で濡れた顔を手でごしごしと拭い、改めて真下を注視した。
駿は、目の前の光景に絶句した。
川の中で、何頭もの生き物が顔を出しているのだ。
その中の一頭は大きな岩場に四足で這い出しており、全身が現れている。
これまで見た事のない生物だった。
しかし妙な既視感があるのは確かだった。
遠目で雨中であるが、大きさは子どもくらい、一見すると蛙と見紛えてしまいそうだが、体長から確実にそれは否定できる。
ーーーこれはまるでーー
駿はもっと近くで確認する為、淵の降り口を探そうと辺りを見回すと、背後に遠藤が立っている事に気づき思わず声を上げた。
「下には降りない方がええ。奴ら、水中に引き摺り込む習性があるから。」
遠藤はそう言うと、大きな溜息をついた。
駿はあまりの驚きでその場に座り込んでしまい、遠藤を見上げた。
「ーーーついて来たんですか。」
駿の言葉に、いやいや、と遠藤は首を振った。
「この淵の近く、上流の方に事務所があるんやけどな、この場所を管理する事務所やねんけど、そこから様子を見に来たんや。雨の日は活発になるから。」
「話が見えないんですが…ここは、あの生き物は一体何なんですか。」
「一時期は絶滅しかけとった。大昔はようさんあちこちにおって、地域によっては水神様なんて呼び方もあったらしいけど、開発やらなんやらで住みにくくなってしまったんやろな。綺麗な清流でしか生きられへんねん。」
遠藤は淵へ目をやりながら言葉を続ける。
「うちの大昔の先祖がな、この淵でこれらを見つけてから代々守ってる。こいつらが生息できない水域になってもうたら人間も滅んでしまう、そうならんよう守っていこうというのが代々の習わしや。要は俺はその子孫で、まぁ言うたら防人みたいなもんやな。昔はうちみたいな防人が他の地域にもいてたらしいけども、環境が昔より悪くなって今では俺たちだけらしい。ーーーそうは言うてもだいぶここも減ってしもうたけどな。昔はもっといたんやで。やっぱりここらも段々と汚されてきてるのかもしれへんな。」
遠藤の話に、駿は開いた口が塞がらなかったが、確かめなければならない事を確かめるべく、震えた声を抑えながら言う。
「ーーー光はもしかして…」
「俺が来た時にはもう遅かった。あんた、ここに来るのに林の岩場にある金梯子使うたやろ。彼も恐らくそうや。ほんで、奴らの様子を見ようとしたのか、淵の近くまで行ったんやろうな。引き摺り込まれて、溺れ死んどった。」
「遺体はどうしたんです。それであればこの話は警察になんでしなかったんですか。あんたのやってる事は隠蔽じゃないですか、ありえない。」
「…ご遺体の行き先は申し訳ないけども、俺も知らされてないねん。この淵の存在は貴重すぎて公にできひん。国も公に認めへんから警察も当然同じや。」

























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