雨が降らないのに、台風さえ来ない。毎日炎暑が続き、人間も植物も元気が出ない。そんなある日、私の母が勝手口から外に出ると、1頭のハクビシンがキャットフードを盗み食いしていたのだ!父親が雷鳴のような凄まじい声でどなりつけ、恐ろしい目で睨みつけたので、その害獣めは悔しそうに後じさりをしながら一旦は退却した。そのハクビシンはよほど残念な気持ちになったのか、その後一時間にわたって、実家の周囲をうろついていたらしかった。しかしながら、父親が怒ったツキノワグマのような顔をして根気よく見張っていたので、その厄介者めはすごすごと帰っていったらしい。
その数日後、私はお盆の為に帰省した。そこで私は母から庭にハクビシンが来たと聞き、仰天した。うちの両親も、17歳のおばあちゃん猫であるスズ(寿々)と暮らしている。スズの安全の為にも、私はよその猫に餌付けすることなどやめるように意見した。
「もう餌付けなんかやめた方がええ。中途半端によその猫にエサなんかあげてるから、ハクビシンのようなものが来たんでしょう?下手すればお母さんが怪我してたとか、そのろくでなし(先述したハクビシン)が家に入って来てたかもよ。」
「お父さんが追い払ったから、大丈夫やったって。第一、N夫さんは猫にゴハンなんかあげないから、ウチが食べさせたらんと(食べさせてあげないと)可哀想やないの!」
「じゃ、ハクビシンがN夫さんの猫をウチの庭で襲ったらどうするの?猫の飼い主が曖昧なままだから、お父さんとお母さんが責任を問われるかもよ?N夫さんには、『ウチの庭にハクビシンが来たので、もう餌付けはできません』と言えばいいと思う。ウチがあの親子猫にゴハンを出さなくても、誰か他所の猫ずきさんが面倒みてくれるでしょ。」
「だから、N夫さんも△△さんも、猫のエサ代も医療費もまったく出さへん人なのよ!猫ちゃんが可哀想やから、ウチが面倒看たらんと(看てあげないと)!」
△△さんとは、私の実家のご近所さんの一人だ。彼は若い頃に猫を2~3回飼ったが、そのうちペットの世話をするのが面倒になったらしく、結局別のお知り合いに譲ってしまったと聞いた。
詰まるところ、私はキカン坊でちゃらんぽらんな両親を説得することができなかった。
その年の11月に、私は用事の為に実家を訪れた。その時に、N夫さんの猫2匹の死を母親から告げられたのだ!子猫の方は他の野良猫との喧嘩で負傷し、それが元で短い生涯を閉じた。そして、あの母猫も難治性の病に侵されていたが、N夫さんに動物病院に連れていかれることもなく、虹の橋に向かったという。
その母猫はいつもおとなしく、5匹の子猫たちが腹一杯食べたのを確認してから、自分も食事をとるような親だった。そんなお利口さんの猫が自らの死期をさとったようで、ある日の昼下がりに優しい声ででしきりに私の母に話しかけ、足元に身をすり寄せてきたらしい。
「あの母さん猫は、『子供たちに食べさせてくれてありがとう。いっぱい面倒看てくれてありがとう』と伝えたかったんやろなあ。きっと、ウチ(私の実家)が好きやったんやに。」
と、私は哀しむ母をなぐさめた。
だが、ここで謎が残った。
死出の旅に出た母子猫の「その後」である。
自分が好きで飼い始めたのに、【死なないように、生きない程度の】、まさに最低限の世話しかしなかったN夫さんは、亡くなった猫たちをどうしたのだろうか?また、彼のペットだった猫たちの中には、保健所に連れていかれる前に、事故や病気で身罷ったものも多い。そういった不幸な死を遂げた猫たちは、N夫さんにどのように扱われたのだろうか?


























沈丁花です。私の趣味の一つは猫さがしです。短編の執筆に行き詰まってしまい、猫のことを考えていたら、長編が出来てしまいました。