「もしかして、さっきの・・・」そこまで口にして、M氏はここに来る前にあったトラブルのことを思い出した。
・・・・・・・・・・・・
山道に入り、道幅も狭くなってきたところで、M氏は道の真ん中に動物が横たわっているのを発見し、急ブレーキをかけた。
犬だろうか、そう思いクルマを降りようとしたのだが、その手が止まる。
「クマだ・・・子熊だ・・・」
クマの子が倒れているのが見える。M氏は警戒した。
子熊がいるところにはかならず母熊がいるはずだ。
下手に子熊に触れば、怒り狂った母熊が一気に襲い掛かってくるかもしれない。
そう危険を察知したM氏は、しばらく様子を見ることにした。
このまま見捨てて走り去ることもできたが、そうすればきっと後続のクルマが子熊の体をすり潰していくだろう。それだけは避けたい。
時間が経過する・・・。母熊が現れる様子はない。
「つまり・・・」M氏は考えた。
「この子熊は親からはぐれて山をさまよったか・・・あるいは親の方は既に駆除されてしまったのかもしれないが・・・いずれにしろ孤独に山を歩き回り、最後はここでクルマに跳ねられてしまったのではないか・・・」
M氏の考えは当たっていた。
昨今、日本各地で熊の出没が相次ぎ、猟友会が出動して仕留める事例が増えていた。
この地域でも似たようなニュースが流れていた。
クルマには工具として小さい折り畳み式のスコップがある。
それで埋めて土に還してやろう・・・そう思い、クルマを降りた。
・・・子熊は口から鮮血を吐き、息絶えていた。
「はぁ~~~~・・・」大きなため息をつきながら天を仰ぎ見るM氏。
昔、自分が飼っていた柴犬のリッキーも、事故で同じように失くしていた。
その時以来、彼のクルマはほとんど掃除されておらず、だんだんと汚れが溜まっていた。
一緒にクルマに乗って遊びに行ったリッキーの毛や、匂いや、ドロ汚れを、
どうしても片付ける事が出来なかったからだ。
M氏は辺りを見回した。埋めるにしても道路わきでは子熊も怖かろう。
子熊の遺骸を抱きかかえながら、竹藪を抜け、丘になった部分を登っていく。
やがてちょうどよさそうな場所に出くわした。
「ここなら、子熊も山に還れるだろう」そう言って、折り畳みスコップで土を掘り返した。
掘った穴に子熊を納めると、M氏はキーホルダーに付けていた神社のお守りを一つ、子熊の体の上に乗せ、そこへ土をかけていった。
一通り埋め終わるとM氏は手を合わせ、急ぎクルマに戻ることにした。



























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