俺たちはその変化を面白がって観察した。
どこに移ったとか、どのくらいずれたとか。
けれど、六年の終わり頃には、
誰もあの話をしなくなっていた。
理由は、ひとつだけ、はっきりしている。
小山がいなくなったからだ。
小山は、俺の隣の席だった。
声の小さいやつで、でも成績は良かった。
放課後に二人でよくあの白線を眺めていた。
ある日、小山が言った。
「中心、掘ってみようか」
当時の俺たちは、半ば冗談のつもりだった。
でも、翌日の放課後、二人でスコップを持っていった。
土を掘ると、すぐに硬いものに当たった。
それは古びた瓶だった。
中に紙が入っていて、墨で何か書かれていた。
──わたしたちは ここに かえす。
俺は笑った。意味がわからなかったからだ。
けど、小山は真顔だった。
その顔を最後に、あいつを見た記憶がない。
翌週、学校に来なくなった。
先生も、親も、転校だとしか言わなかった。
机ごと消えた。
ただ、それきり、誰も小山の話をしなくなった。
それから十数年。
俺は東京でライターをやり、雑誌に小さな記事を書いて生きてきた。
そしていま、再開発の取材で戻った母校の跡地に立っている。
白い輪の痕を見た瞬間、
あのときの土の感触と、瓶の重さが蘇った。
けれど、ひとつだけ違っていた。
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