俺はそれを拾い上げた。
栓を抜くと、紙切れが一枚。
——「環は満ちた。三人はそろった。」
足元の地面が、静かに沈み始めた。
土が柔らかくなり、音もなく俺の靴を飲み込んでいく。
身体が傾き、視界が下に引かれる。
耳の奥で、子どもの笑い声がした。
「ありがとう。もう、ひとりじゃない」
それから先のことは、断片的にしか覚えていない。
気づいたとき、俺は病院のベッドの上にいた。
工事現場の作業員に発見されたらしい。
意識不明の状態で、倒れていたと。
しかし、奇妙なことに、発見場所は〈黒澤第一小〉ではなかった。
そこは、市の外れの、まったく別の土地だった。
地図にも、昔の記録にも、その小学校の名は存在しなかった。
退院後、俺は調べた。
けれど、〈柳樽堂〉という古書店も存在しない。
編集部の同僚は言った。
「そんな書店、聞いたこともないよ。おまえ、取材でどこ行ってたんだ?」
ただ一つだけ、確かに残っている。
取材用の録音データだ。
そこに、自分の声が残っていた。
「——次は、あなたが、かえす番」
そしてその直後、かすかな子どもの声が重なる。
「まるく もどったね」
今夜も、机の上にあの瓶を置いている。
中には、白い粉が少し。
ふと風が吹くと、それが円を描くように舞い上がる。
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