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不思議体験

どこかで見た話さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

停滞の町
短編 2025/11/28 00:56 1,719view

 案内人は途中でふと立ち止まった。

「……言い忘れましたが、名前を名乗ってはいけません。
 ここでは“名前”が食われますので」

 三人は息を飲んだ。
 食われる?
 それはどういう意味だ。

 案内人は先に降りていく。
 その背中が揺れたとき、Aは彼女の外套の裾が床についていないことに気づいた。
 半月分ほど浮いている。

 言うべきか迷って、言えなかった。

 階段を降りきると、巨大な空洞が広がっていた。
 天井は見えず、壁は古代の岩のように荒い。
 その中央に、“それ”があった。

 人の形をした金属塊。
 錆びた鎧のようで、像のようで、屍のようで――
 だが明らかに“落ちてきた”痕跡がある。
 天井のずっと上、岩に食い込むような大きな穴が開いていた。

「……何だよ、これ」
 Bが震える声で言う。

「この町に迷い込む人間のほとんどは、これを見てしまいます。

 そして、ほとんどは戻れない」

 案内人が言った瞬間、空洞全体が軋んだ。
 金属の人影が微かに伸びる。
 まるで三人の名を呼ぶように、形を歪めた。

 Aが背を向けた瞬間、案内人の手がAの肩を掴んだ。

「まだ戻れませんよ」

 その掌は冷たく、金属のようだった。

 逃げようとしても、空洞は出口を変える。
 右に走れば壁がせり出し、左に向かえば道が溶け、後ろに戻れば床に吸い込まれそうになる。
 案内人は動かない。
 ただ、薄く笑っている。

3/5
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