案内人は途中でふと立ち止まった。
「……言い忘れましたが、名前を名乗ってはいけません。
ここでは“名前”が食われますので」
三人は息を飲んだ。
食われる?
それはどういう意味だ。
案内人は先に降りていく。
その背中が揺れたとき、Aは彼女の外套の裾が床についていないことに気づいた。
半月分ほど浮いている。
言うべきか迷って、言えなかった。
階段を降りきると、巨大な空洞が広がっていた。
天井は見えず、壁は古代の岩のように荒い。
その中央に、“それ”があった。
人の形をした金属塊。
錆びた鎧のようで、像のようで、屍のようで――
だが明らかに“落ちてきた”痕跡がある。
天井のずっと上、岩に食い込むような大きな穴が開いていた。
「……何だよ、これ」
Bが震える声で言う。
「この町に迷い込む人間のほとんどは、これを見てしまいます。
そして、ほとんどは戻れない」
案内人が言った瞬間、空洞全体が軋んだ。
金属の人影が微かに伸びる。
まるで三人の名を呼ぶように、形を歪めた。
Aが背を向けた瞬間、案内人の手がAの肩を掴んだ。
「まだ戻れませんよ」
その掌は冷たく、金属のようだった。
◆
逃げようとしても、空洞は出口を変える。
右に走れば壁がせり出し、左に向かえば道が溶け、後ろに戻れば床に吸い込まれそうになる。
案内人は動かない。
ただ、薄く笑っている。
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