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不思議体験

どこかで見た話さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

停滞の町
短編 2025/11/28 00:56 1,711view

 Aが声を上げるよりも先に、Kが一歩下がった。

「……あんた、誰?」

「私は案内役です。この町に迷い込んだ方がたを、向こうへ戻すための」

 女はそう言って微笑んだが、その目だけは笑っていなかった。
 案内役――そう名乗ったが、どこにも戻す道など見えない。
 路地は四方に分かれ、どれも同じ赤い灯りを吐いている。

「ここは、“停滞の町”と呼ばれています。
 人が来ることも、出ていくことも、ほとんどありません。
 あなた方は珍しいですね。三人で来るとは」

 女の声がやけに耳に残る。

 気がつくと、遠くから金属がこすれるような音が響いた。

「……なんだこれ?」

「地下のものですね」
 案内人があっさりと答えた。

「この町は山の下に“穴”がありまして。
 そこには、人の形をした金属が落ちているのです」

 Aが息を呑む。
 意味がわからない。だが、その言葉がすんなり頭に入ってくるほど、この町の空気は現実感を奪っていた。

「案内しますか?」
「え……」

「地上に戻るには、そこを通らねばなりません」

 その言葉を聞いた瞬間、三人の背後の路地が崩れたように感じた。
 振り向けば、そこにあったはずの鳥居が消えている。

 戻れない。
 案内人は、それを確かめるように頷いた。

「では、参りましょう」

 地下へ向かう階段は、異様に長かった。
 壁は湿っているのではなく、まるで呼吸しているように脈動している。
 階段の下からは、あの金属音が響き続ける。

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