Aが声を上げるよりも先に、Kが一歩下がった。
「……あんた、誰?」
「私は案内役です。この町に迷い込んだ方がたを、向こうへ戻すための」
女はそう言って微笑んだが、その目だけは笑っていなかった。
案内役――そう名乗ったが、どこにも戻す道など見えない。
路地は四方に分かれ、どれも同じ赤い灯りを吐いている。
「ここは、“停滞の町”と呼ばれています。
人が来ることも、出ていくことも、ほとんどありません。
あなた方は珍しいですね。三人で来るとは」
女の声がやけに耳に残る。
気がつくと、遠くから金属がこすれるような音が響いた。
「……なんだこれ?」
「地下のものですね」
案内人があっさりと答えた。
「この町は山の下に“穴”がありまして。
そこには、人の形をした金属が落ちているのです」
Aが息を呑む。
意味がわからない。だが、その言葉がすんなり頭に入ってくるほど、この町の空気は現実感を奪っていた。
「案内しますか?」
「え……」
「地上に戻るには、そこを通らねばなりません」
その言葉を聞いた瞬間、三人の背後の路地が崩れたように感じた。
振り向けば、そこにあったはずの鳥居が消えている。
戻れない。
案内人は、それを確かめるように頷いた。
「では、参りましょう」
◆
地下へ向かう階段は、異様に長かった。
壁は湿っているのではなく、まるで呼吸しているように脈動している。
階段の下からは、あの金属音が響き続ける。
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