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不思議体験

どこかで見た話さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

停滞の町
短編 2025/11/28 00:56 1,720view

「名前を言わなければ、まだ助かります」

 その言葉は脅しではなかった。
 金属の人影が、三人の影と重なろうとしている。
 影が喰われるように揺らめく。

「おい、A! K!」
 Bが叫んだ瞬間、案内人の目が鋭く光った。

「ああ……言ってしまいましたね」

 金属の塊が震える。
 三人は固まった。

「A、K、B……違いますよね?」
 案内人が囁く。
 耳元で。

「あなたたちは――有田、木村、馬場。
 本名を呼ばれた瞬間、町はあなた方を“知る”のです」

 金属の影が腕を伸ばした。
 それはまるで、失われた部品を取り戻すように三人へ向かう。

「逃げて」
 案内人が初めて焦った声を出した。

 だが遅い。空洞が閉じ、道が歪み、光が消える。

「行きなさい!」
 案内人が叫び、外套が裂けた。
 中から金属の光が漏れ出す。

「私たち“向こう側の者”は、あなた方の名前を奪うことはできても、命までは奪えません。
 ただし――この町が気に入ったなら、別ですが」

 金属の手が三人を押し返すように動いた。
 空洞の出口が現れ、赤い路地へとつながる。

 三人は転がるように駆け出し、気づけば大山の登山道に立っていた。
 夜の霧は薄く、鳥居も、赤い灯りもどこにもない。

 ただ、Aの耳元だけに、微かな金属音が残っていた。

4/5
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