「名前を言わなければ、まだ助かります」
その言葉は脅しではなかった。
金属の人影が、三人の影と重なろうとしている。
影が喰われるように揺らめく。
「おい、A! K!」
Bが叫んだ瞬間、案内人の目が鋭く光った。
「ああ……言ってしまいましたね」
金属の塊が震える。
三人は固まった。
「A、K、B……違いますよね?」
案内人が囁く。
耳元で。
「あなたたちは――有田、木村、馬場。
本名を呼ばれた瞬間、町はあなた方を“知る”のです」
金属の影が腕を伸ばした。
それはまるで、失われた部品を取り戻すように三人へ向かう。
「逃げて」
案内人が初めて焦った声を出した。
だが遅い。空洞が閉じ、道が歪み、光が消える。
「行きなさい!」
案内人が叫び、外套が裂けた。
中から金属の光が漏れ出す。
「私たち“向こう側の者”は、あなた方の名前を奪うことはできても、命までは奪えません。
ただし――この町が気に入ったなら、別ですが」
金属の手が三人を押し返すように動いた。
空洞の出口が現れ、赤い路地へとつながる。
三人は転がるように駆け出し、気づけば大山の登山道に立っていた。
夜の霧は薄く、鳥居も、赤い灯りもどこにもない。
ただ、Aの耳元だけに、微かな金属音が残っていた。
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