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不思議体験

どこかで見た話さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

停滞の町
短編 2025/11/28 00:56 1,719view

青森県宵町。その名を地図で見つけても、そこへ向かう道を知る者はいない。
 土地の古老でさえ「ああ、あそこはね……」と口を濁し、それ以上を語ろうとはしない。
 夜になると霧が垂れ、音が遠ざかり、視界の端に“別の道”がのぞくと噂されている。
 A、K、Bの三人が、ちょうどその噂の境目に足を踏み入れたのは、八月の終わりだった。

 宵町の外れに「大山」と呼ばれる山がある。地元の人間は単に“山”としか言わない。
 登山道はあるが、あるところから先、急に空気が変わる。
 湿って、重くて、酒のような匂いがする。
 Aがスマホで灯りを照らすと、木々の影が揺れ、その奥に小さな鳥居が見えた。

「……あれ、前あったか?」
「いや、俺初めて見るけど。てか、こんな場所に鳥居なんて……」

 不審に思いながら三人が鳥居をくぐると、道が分かれていることに気づく。
 左に進めば登山道の続き、右には舗装されていない細い路地。
 路地の奥からは、微かにざわめきが聞こえた。
 酔客の低い笑い声のようであり、誰かが独り言をつぶやいているようでもあった。

「帰るか?」
「いや、ちょっとだけ見てみようぜ。すぐ戻るし」

 それがすべてのはじまりだった。

 細い路地を抜けると、古びた街並みが現れた。
 灯りは赤く滲み、どの店の看板も読めない。
 読もうとすると、文字が揺れて別の形に変わってしまう。

 三人は同時に鳥肌を立てた。

「……ここ、やべぇぞ」
 Kが呟く。
 その声は、路地に吸い込まれるように小さくなった。
 時間の流れが鈍い。風が止まり、空気が腐るように重い。

 そのとき、後ろから声がした。

「迷いましたか」

 三人が振り返ると、長い外套を着た女が立っていた。
 白でも黒でもない、灰がかった外套。
 年齢はよくわからない。
 顔だけが淡く光っているように見える。

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