青森県宵町。その名を地図で見つけても、そこへ向かう道を知る者はいない。
土地の古老でさえ「ああ、あそこはね……」と口を濁し、それ以上を語ろうとはしない。
夜になると霧が垂れ、音が遠ざかり、視界の端に“別の道”がのぞくと噂されている。
A、K、Bの三人が、ちょうどその噂の境目に足を踏み入れたのは、八月の終わりだった。
宵町の外れに「大山」と呼ばれる山がある。地元の人間は単に“山”としか言わない。
登山道はあるが、あるところから先、急に空気が変わる。
湿って、重くて、酒のような匂いがする。
Aがスマホで灯りを照らすと、木々の影が揺れ、その奥に小さな鳥居が見えた。
「……あれ、前あったか?」
「いや、俺初めて見るけど。てか、こんな場所に鳥居なんて……」
不審に思いながら三人が鳥居をくぐると、道が分かれていることに気づく。
左に進めば登山道の続き、右には舗装されていない細い路地。
路地の奥からは、微かにざわめきが聞こえた。
酔客の低い笑い声のようであり、誰かが独り言をつぶやいているようでもあった。
「帰るか?」
「いや、ちょっとだけ見てみようぜ。すぐ戻るし」
それがすべてのはじまりだった。
細い路地を抜けると、古びた街並みが現れた。
灯りは赤く滲み、どの店の看板も読めない。
読もうとすると、文字が揺れて別の形に変わってしまう。
三人は同時に鳥肌を立てた。
「……ここ、やべぇぞ」
Kが呟く。
その声は、路地に吸い込まれるように小さくなった。
時間の流れが鈍い。風が止まり、空気が腐るように重い。
そのとき、後ろから声がした。
「迷いましたか」
三人が振り返ると、長い外套を着た女が立っていた。
白でも黒でもない、灰がかった外套。
年齢はよくわからない。
顔だけが淡く光っているように見える。

























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