それを証するに、村に留まりし者ら、
今に至るも、左肩に包みを巻きて、語らず。
笑み湛ふれど、口は開かれず。
風の吹くを待ちて、声無く座しぬ。
古き地図に、消されし名あり。
神神原(かみがみはら)
稲川越(いながわごえ)
水祓谷(みのあらえだに)
大方道(おえかたみち)
これらの地名、すでに現代の地図より抹され、航空写真にも痕見えず。
されど、鉛筆にて書き足されし線、いまも古き製図に在り。
あるいは、それ皆、古の「天之川泣也」神の通られし路なりしとも。
名持たぬ者ら、その道を辿りて消えしを、誰も知らず、知ろうとせず。
人ありて、最後に日記を記せり。曰く、
「かの地へ行くべからず。
道なけれど、足は進み、気づけば、村の姿、失せたり。
風、背より吹き来たりて曰ふ――
『名は預かりぬ』――と。
それ、声にあらず、音にあらず。
ただ、耳の内に、息のごとく入りぬ。
それより我は、我が名を思へず。
誰ぞ、我が名を先に呼びしがためなり。
名とは、魂にして、声にて渡るもの。
渡されし名は、戻らず。
かの神の土地においては、
それ、死よりも早く、魂の帰らぬ道なりけり。」
(附録:村史抄録・神語伝)
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