奇々怪々 お知らせ

妖怪・風習・伝奇

どこかで見た話さんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

カミの土地
長編 2025/11/15 17:15 2,314view

それを証するに、村に留まりし者ら、
今に至るも、左肩に包みを巻きて、語らず。

笑み湛ふれど、口は開かれず。
風の吹くを待ちて、声無く座しぬ。

古き地図に、消されし名あり。

神神原(かみがみはら)

稲川越(いながわごえ)

水祓谷(みのあらえだに)

大方道(おえかたみち)

これらの地名、すでに現代の地図より抹され、航空写真にも痕見えず。
されど、鉛筆にて書き足されし線、いまも古き製図に在り。

あるいは、それ皆、古の「天之川泣也」神の通られし路なりしとも。

名持たぬ者ら、その道を辿りて消えしを、誰も知らず、知ろうとせず。

人ありて、最後に日記を記せり。曰く、

「かの地へ行くべからず。
道なけれど、足は進み、気づけば、村の姿、失せたり。

風、背より吹き来たりて曰ふ――
『名は預かりぬ』――と。

それ、声にあらず、音にあらず。
ただ、耳の内に、息のごとく入りぬ。

それより我は、我が名を思へず。
誰ぞ、我が名を先に呼びしがためなり。

名とは、魂にして、声にて渡るもの。
渡されし名は、戻らず。

かの神の土地においては、
それ、死よりも早く、魂の帰らぬ道なりけり。」

(附録:村史抄録・神語伝)

4/4
コメント(0)

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。