懐中電灯の光を向けても、木々の陰が揺れるばかりで何も見えない。
「……気のせい、だよな」
「いや、さっき確かに――」
その時、また「ガサッ」と、今度ははっきりと音がした。
今度はすぐ近く。背筋に氷のような感覚が走る。
俺たちは息を呑んだまま、その音のする方向を凝視した。
恐怖で足がすくんでいるのか、それとも――その奥にある好奇心が背中を押したのか。
どちらにせよ、目が離せなかった。
「……おい、なんか、動いてる」
亮介がかすれ声で呟く。
懐中電灯の光が木々の間を彷徨い、やがて――「ガサッ」と枝葉が割れる音とともに、それが現れた。
の中にある妙な好奇心のせいなのか――ただその音のする方向をじっと見つめていた。
「ガサッ!」
闇の奥から、木々をかき分けるようにして大男が現れた。
街灯もない山の中、月明かりだけを頼りに見たその姿は、異様だった。
身長は軽く190センチはある。
肩幅も広く、分厚いコートのようなものを着ていて、全体が黒い影の塊にしか見えなかった。
顔はフードの陰に隠れて見えない。
「……誰だ、お前」
亮介が震える声で問いかける。
男は何も言わず、ゆっくりとこちらに一歩踏み出した。
するとその男は、意外にも田舎くさい、のんびりした口調で口を開いた。
「……なんだべ、おめぇら。こんな時間に、山ん中で何してんだ?」
低くしわがれた声だったが、怒っている様子はない。
ただ、どこか“人間離れした落ち着き”のようなものがあった。
亮介が慌てて笑いながら答える。
「いや、ちょっと肝試しっていうか……はは、迷っちゃって……」
「迷ったのか?」
男はゆっくりとこちらへ歩み寄り、俺たちの足元をちらりと見た。
その目は、暗闇の中でも妙に光って見えた。

























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