逃げるわけにもいかない。
疑われるわけにもいかない。
俺は箸を手に取り、ひとつ、肉団子を口に運んだ。
──柔らかい。
けれど、妙に……鉄の味がする。
舌の上に残る生温い金属の風味。
亮介も、無言で一口だけ食べた。
二人して、ただ“飲み込むこと”しかできなかった。
食事を終えるころには、部屋の中に沈黙が満ちていた。
皿の上には、もう何も残っていない。
だけど──胸の奥は、重く沈んだままだった。
亮介がちらりと俺を見る。
その目には、もう“好奇心”の火はなかった。
あるのはただ、“ここから出たい”という焦りだけ。
「……ごちそうさまでした。すごく美味しかったです」
亮介が、わざと明るく言う。
俺もぎこちなく頭を下げた。
「そろそろ、下山しようかと思って……夜も遅いですけど、ライトもありますし」
そう言って席を立とうとした、その瞬間。
「――待て」
男の低い声が、背中を刺すように響いた。
ゆっくりと立ち上がるその動作。
笑っているのに、目が笑っていない。
「こんな夜に山を降りるなんて、無茶だべ」
男はそう言いながら、腰の辺りに手をやった。
そして、服の下から“それ”を引き抜く。
重そうな鉄の音。
鈍く光る刃。
──斧。
さらに、刃を覆っていた革のカバーを、ゆっくりと外した。
“ギィ……”と擦れるような音が、やけに長く響く。
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