「痛い!」
懐中電灯の光が戻った時、僕たちは床に倒れていた。
腕を見ると、爪で引っ掻かれたような傷跡が残っていた。
僕たちは慌てて家を飛び出し、夜道を全力で走って逃げた。
それ以来、僕たちは赤い家には二度と近づかなかった。
だが、あの夜の出来事は、僕たちの心に深い傷を残した。
夏休みが終わり、僕が実家を離れてしばらく経った頃、ケンジから電話がかかってきた。
「…赤い家、また行くぞ」
ケンジの声は、どこかおかしく、まるで別人のようだった。
「どうしたんだよ、ケンジ。やめよう、もうあんな場所には…」
「行かなきゃいけないんだ」
ケンジは、それだけ言うと電話を切った。
僕はいてもたってもいられず、急いで実家に戻った。
赤い家に行くと、ケンジが家の前に立っていた。
「ケンジ、どうしたんだよ、お前…」
ケンジは僕に振り返った。その顔は、血の気がなく、目が虚ろだった。
「なあ、知ってるか?あの家の壁、あれ、本当は白かったんだぜ」
ケンジはそう言って、赤い家の中へと入っていった。
僕はケンジを追いかけようとしたが、足がすくんで動けない。
その時、家の中から、子どもの歌声が聞こえてきた。
「あーかい、あーかい、おうちー」
歌声は、徐々に大きくなっていく。
「なーにで、ぬるーのー」
すると、ケンジの悲鳴が聞こえた。
「やめろ、やめてくれ!」
僕は恐怖に耐えきれず、その場から逃げ出した。
その後、ケンジがどうなったかは知らない。
集落の人たちに聞いても、誰も何も話してくれなかった。
僕は、ケンジが赤い家で何を見たのか、何に引きずり込まれていったのか、知るのが怖かった。
それから数年後、僕は結婚して子どもができた。






















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