「ガンギギ」にまつわる都市伝説

この世には一般的に知られていないローカルな妖怪がいる。その代表格が「ガンギギ」だ。「ガンギギ」とは「黒い」「小さい」「目がデカい」そして「ガードレールをガンガン叩きながら追いかけてくる」という特徴を持った妖怪である。京都市にあるK大学の教授は若いころ、洒落怖に出てくる謎の妖怪「ガンギギ」にまつわる話を収集していた。余談であるが、「ガンギギ」だけでなく、「ヲヲーンワ」という謎の悪魔にまつわる話もこの際だから掲載しておこう。教授は「ヲヲーンワ」が掲載されている古い悪魔図鑑の事を調べる事にした。まずも東京にある国立図書館に向かい、悪魔図鑑を片っ端から調べた。その時、
「そこのあんた」
国立図書館の職員が教授に話しかける。教授は「ヲヲーンワ」が掲載されている古い悪魔図鑑について話す。
「おそらく、その悪魔図鑑は自費出版で出された奴だろう。すまないが駐車場で待ってくれ」
教授は駐車場にて創元推理文庫のホラーアンソロジー「怪奇小説傑作集2　英米編2」を読みながら待っていた。その時、クラクションが鳴った。そこにはトライアンフ・2000(マーク2)が停車していた。トライアンフの助手席のドアが開く。職員が乗ってくれと合図する。教授はトライアンフに乗り込む。トライアンフは発進した。
「あんたは「ヲヲーンワ」が掲載されている悪魔図鑑の事を調べているらしいが・・・」
職員は重い口調で言う。
「そうだが、それが何か？」
「その悪魔図鑑の事を一体どこで知ったんだ？」
「洒落怖」
「そうか・・・それにしてもおかしい・・・あの悪魔図鑑はそもそも一つしか存在しない。悪魔図鑑が表に出ないように国立図書館で厳重に保管されているはずなのに・・・。いや、待てよ。洒落怖に「ヲヲーンワ」という悪魔の話が投稿されたが、物部天獄の教団の仕業かもしれぬ。連中が悪魔図鑑を手に入れるための罠の可能性もある・・・」

職員はハンドルを握りながら、独り言をつぶやいていた。トライアンフは東京駅に停車した。職員は教授に
「あの悪魔図鑑の事は忘れなさい。それと物部天獄の教団が「ヲヲーンワ」が掲載されている悪魔図鑑を狙っているんだ。実はトライアンフの後ろを黒塗りの日産・プレジデント(250型)が尾行していたんだ。安心しろ。尾行していたプレジデントは泥ママが運転する大型トラックに激突して爆発炎上したからな」
と警告する。トライアンフはそのまま、走り去っていた。

さて、「ガンギギ」の事を調べていた時、とある学生から
「ガンギギで思い出したんだけど、ガンギギは「エルヴィスサンド」が好きな奴に襲い掛かるってのなら知っている」
という話を聞いたのだ。アメリカの人気歌手、エルヴィス・プレスリーが好きだったピーナッツバターとバナナとベーコンを具材とするホットサンドイッチの事だ。その「エルヴィスサンド」を食べすぎたせいでプレスリーは死んだなんて逸話があるくらいだ。教授は
「その話を誰から聞いたんだい？」
と学生に質問する。
「俺の親父からだよ。親父はエルヴィス・プレスリーの大ファンだったんだ」
「エルヴィス・プレスリーとは懐かしいな。今のご時世ではプレスリーは色者扱いされそうだが。それにしても、プレスリーが日本公演しなかったのは残念だな。もっとも、パーカー大佐(プレスリーのマネージャー)の横やりがあったのが原因なんだがね」
「いや、親父から聞いたんだけど、エルヴィス・プレスリーが日本公演をするという話はあったんだよ。その辺りから「ガンギギ」の話が出回るようになったんだ。後日、プレスリーの日本公演が中止になったんだ。親父曰く「プレスリーの日本公演が中止になったのは「エルヴィスサンド」が好きな奴に襲い掛かる「ガンギギ」の仕業だ」なんて言っている」

「・・・キミは「ガンギギ」にまつわる話で「ガンギギは「エルヴィスサンド」が好きな奴に襲い掛かる」と話したね？」
「そうだけど、それが何か？」
「これは私の憶測になるが「ガンギギ」の正体はエルヴィス・プレスリーの日本公演を良く思っていない輩が作り出した噂なんだろう。私が思うに「ガンギギ」は存在しない空想の産物なのだよ、はははッ」
「まさか、パーカー大佐が噂の出頃なのか？」
「いや、さすがにパーカー大佐はあり得ない。キミはエルヴィス・プレスリーが日本公演の事でなにか知っている事はまだあるのか？」
「いや、待てよ・・・思い出した。当初は日本でなく、お隣の韓国でプレスリーのライブを開催する予定だったんだけど、プレスリー本人が難色を示して、韓国から日本に変更になったんだよ。それに当時の韓国は朴正煕による軍事独裁政権だったわけだし。韓国の芸能プロモーターの怒りは相当なものだったらしいぜ。パーカー大佐に「違約金払え！」と抗議するくらいだ」
「なるほど、「ガンギギ」の噂の出どころは韓国の芸能プロモーターたちという事になるな」
「後、アメリカ人のプレスリーファンから聞いた話になるんだが、テネシー州メンフィスにあるプレスリーの自宅「グレイスランド」近くで「黒い」「小さい」「目がデカい」モンスター(おそらく、ガンギギの事だ)を出没するという話を聞いたんだ。事実、プレスリーファンの中にも目撃している人もいるんだ。アメリカ人たちの間では「あのモンスターは死神かもしれない。プレスリーの命を取りに来たんだ」と言っていたそうだ」
学生の話を聞いて、教授は肩をすくめながら、窓から外を眺める。学生はプレスリーの愛した「エルヴィスサンド」を食べる。その時、教授はとんでもないモノを見てしまった。
「！」
外には何十匹の「ガンギギ」たちが教授たちの方を見ていたのだ！