(しまった…寝過ごしちゃった…!)
少女はすぐに鞄を掴むと慌てながら電車を降りた。彼女がいつも降りている駅と比べてここは随分と寂れた駅である。
(先生に連絡しないと…!)
少女は降りるとほぼ同時にスマホを取り出した。中学受験が一年後に控えている彼女は塾に通っているのである。さっそく塾長に連絡をしようとボタンを押したが、少女はすぐに首を捻る。
(電話が繋がらない…なんで…?)
彼女にとってスマホとは連絡を取るための手段でしかなく、塾に行く時しか持っていかないため、スマホが圏外になるというのは初めてのことであった。しかし、賢明な少女はすぐに打開策を思いついた。
(公衆電話、ないかな。お母さんに連絡すれば…)
その時初めて少女の目が寂れた駅に向けられた。ある一つの点を除けばこぢんまりとした古びた駅である。
(この看板…すごく錆びてる…)
異様なまでに錆びたその看板からは駅名しか読み取ることができない。再び少女が首を捻る。
(うつしよ駅…?こんな駅あったっけ…?)
疑問には思ったものの、そんなことは気にしていられない。彼女は早く母親に連絡をしなければならないのだから。しかしながら公衆電話は見当たらない。
(どうしよう…隣の駅に行ってみようかな…)
手段は選んでられない。彼女が最も恐れるものはこの得体の知れない駅ではなく塾長である。少女 は歩き出した。
(電車も全然来ないから仕方ない、よね?)
歩き回った結果少女はふたつのトンネルを見つけた。簡単に言えば、明るいトンネルと真っ暗なトンネルである。いくら彼女が同世代と比べて比較的大人びているからと言って暗いところが全く怖くないわけではない。彼女は明るいトンネルを歩くことにした。その時だった。
(うわっ!?な、なに…?)
少女は何かにつまづいてしまったのだ。少女は痛みを堪えながら立ち上がった。そして、自分は石につまづいてしまったのだと考え、たいして気にも留めず、そのトンネルを歩くことにした…
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『まさか、寝過ごしちまうとはな。』
気だるそうに男が呟く。彼は電車でアルバイトに向かう途中だったのだが、学業と仕事の両立とは疲れるもので、つい寝過ごしてしまったのだ。
『早めに家を出ておいて良かったな…さて、ここはどこだ?』
男が錆びた看板を見る。
『うつしよ駅…だと?そんな駅あったか…?』
男が形の良い眉をひそめる。すぐさまスマホで調べようとするが、例のごとく圏外である。
『ちっ…次の電車は…1時間後だと…?』

























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