だが、浜辺は遠い。目を離した隙に男性の姿を見失ってしまうかもしれない。
!
その時、男性の腕が動いた。
もがき苦しむように水を掻いている。
溺れているのだ。
助けを求めているのだ。
私の脳裏に、過去、自身が溺れた時の恐怖が浮かぶ。
どうしようか…。
…答えは決まっている。
私は決意した。
助けよう!
海で苦しむ人を放ってはいけない!
『彼』だって、そうした!
そう決めた私は、溺れる男性に向かって泳ぎ出した。
…
…この時の勇気を、私は決して、絶対に、忘れない。
…
波を掻き分け、全速で泳いだ。
だが、男性の元にはなかなか辿り着かない。
泳いでも泳いでも、男性の姿は遠い。
なんで! なんで近付かないの!
まるで私が進んだぶんだけ、男性自身が流されているようだった。
助けなきゃ!
助けなきゃ!
でも、でも…。
間に合わないかもしれない。
そんな弱気な予感が頭をかすめる。
その時である。
視界に先で、男性の右腕が水面から這い出て、私に向かって手を伸ばしている姿が見えた。
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