立ち泳ぎながら私も手を振り返す。
塩辛い海水が私の口元を舐めた。
澄み渡る空。水面の遙か先の水平線。
海に来なければ味わえない、自然がつくる圧倒的開放感。
海に来て、良かった。
本当に、良かった。
これでやっと、私は前に進める。
…
…その時の勇気を私は一生涯、忘れない。
…
一緒に来た仲間達とビーチバレを楽しんだ。
サンオイルを塗って砂浜に寝転び太陽の光を浴びた。
海の中で海水を浴びせ合ってはしゃいだ。
胸元に浮かぶ水滴は、汗か海水か。
ひとしきり海水浴を楽しんだ仲間達は、浜辺で休憩をとりに行った。
けど、私はまだ、海に浸かっていたかった。
私は仲間達から離れ、一人で泳ぐ。
一人で、海の楽しさを、そして、自身のトラウマを克服した喜びを味わっていたかった。
…。
その時である。
…〝助けてくれ〝
声が聞こえた気がした。
助けを求める声だ。
波に身を揺られながら、私は周囲を見渡す。
ふと、沖の向こうに何かが浮き沈みしているのが見えた。
私は目を凝らす。
それは、人だった!
男性がうつ伏せになったまま、流されている!
裸の上半身がぷっかりと海を漂っている。
…どうしよう。人を呼ぼうか…。
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