数年前の話です。
私が新社会人として勤めることになった職場は、家から電車で十分もかからない場所にあり、
車内が混雑することもあったため、私はよく端の方で立って車窓を眺めていました。
入社して二週間ほど経ったころ、線路に面した集合住宅の三階から、
こちらに向かって笑顔で手を振っている男の子がいることに気づきました。
その存在を認識してからというもの、毎日のようにその男の子を目にすることに。
電車が好きなんだなあと和やかな気持ちになり、
その光景を見るのが日課のようになっていました。
そんな折、会社から通勤路を提出するよう求められました。
地図アプリを開き、通勤ルートの図を作成している際、どこか違和感を覚えました。
もやもやした気持ちのままその日の業務を終えましたが、帰宅してすぐ、
その違和感の正体に気づきました。
改めて地図アプリで通勤路を確認すると、
あの男の子が住んでいるであろう集合住宅が地図上に存在しなかったのです。
あの集合住宅は新築で、ゆえにまだマップに反映されていないんだ。
そう自己解決した私は、翌朝も通勤電車に乗り込みました。
動き出す電車。
いつも以上に車窓の外を注視した私は、寒気を覚えました。
お世辞にも新築には見えない集合住宅の三階から、こちらに笑顔を向ける男の子。
男の子は手を振っていたのではなく、「おいでおいで」を繰り返していたのです。
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