何も盗られていない。
まるで、自分の意思で“だけ”いなくなったような形。
二週間後、林田も姿を消した。
前日の夜、「最近、変な夢ばっか見るんだよ」と電話で言っていた。
「うちの部屋の真ん中に、椅子が置いてあるの」
「毎晩、ちょっとずつ近づいてくる。昨日はベッドの横だった」
笑っていたが、声が震えていたのを覚えている。
林田の部屋にも、侵入の形跡はなかった。
何が起きているのか、理解したくなかった。
けれど、僕は見てしまった。
秋山が撮った写真を、LINEのアルバムに上げていた。
あの椅子の写真。三枚とも。
最初の一枚。
部屋の真ん中に、椅子だけ。
二枚目。
椅子の背後に、白い何かが“写っている”。
それは、ぼんやりとした人影。
そして三枚目では
その影が、椅子の前に立ち、カメラの方を向いていた。
スマホの画面越しに、それと目が合った気がして、震えが走った。
すぐにアルバムを閉じ、LINEごと消した。
でも、その夜からだ。
帰宅すると、部屋の中央に空白があるように感じる。
荷物を置いても、椅子を動かしても、必ず“そこ”だけが空いている。
足を踏み入れると、床が僅かに沈む。
音もしないのに、気配だけが居座っている。
そして、今朝。
目を覚ました僕の部屋の真ん中に、
木製の、埃まみれの、あの椅子が置かれていた。
カーテンは開いていた。
窓は閉めていたのに、空気が冷たい。
























怖い