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不思議体験

nickningenさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

死の夢
長編 2025/09/13 00:05 3,564view
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家を出ると寂しげな風が肌を撫でる。
道には黄色い落ち葉が横たわっていた。
街路樹は衣替えをしたのか少し涼しげだった。
それを太陽が申し訳なさそうに照らしていた。
秋用のMDをウォークマンに挿しこみ、歩き始めた。
教室に着くとまだ数人の生徒しか登校していなかった。
その中に深雪の姿を見つける。
「あ、深雪、おはよう。」
いつものように深雪に朝の挨拶をした。
「千尋…おはよう。」
深雪の目の輪郭はまだぼんやりしていた。
「深雪って絵が上手いよね?
ちょっと頼みたいことがあるんだけど。」
「え?どんなこと?」
深雪は机の上のスポーツバッグに身を預けるようにして机に伏していた。
「最近、夢で何回も同じ景色を見るんだ。
で、その場所を絵に描いてほしいの。
その場所を探してみようと思って。」
深雪が身を起こす。
目の輪郭がさっきよりもくっきりしていた。

「ちょっと面白そう!」
乗り気でよかった。
早速、放課後に描いてくれることになった。

放課後に美術部の部室を訪れると深雪がスケッチブックと色鉛筆を机に広げて待っていた。
「それで、どんな景色なの?」
私が横に座ると深雪が問いかけてきた。
「まず、川の土手で…。」
そう言うと深雪が川の土手を簡単に描いてくれた。
「で、ここら辺に鉄道が橋みたいに掛かってて…。」
「こんな感じ?」
「あと、夜だった。
川の対岸に星が光ってて、両岸には家がたくさんあって、遠くにビルが沢山あった。
あと月が川に映ってた。」
深雪は言われたものをテキパキと足していった。
下書きのようだが、既に夢で見た景色がぼんやりとスケッチブックの中に浮かび上がっていた。
あとは街路樹の位置、鉄道、家々やビル群の詳細を伝えた。
下書きが終わると深雪は色を付けてくれた。
ぼんやりとした景色に次々と命が吹き込まれていった。
「すごい…。」
スケッチブックは鏡のように夢の世界を写していた。

「練習すれば千尋も描けるようになるよ!」
深雪の鼻がいつもより少し高く見えた。
「絵の端っこにサインでも描いてよ!
深雪先生が有名なイラストレーターになった時のために。」
深雪の鼻がさらに高くなった。
「その時はまた違う絵を描いてあげるよ!」
そう言いつつ夢の絵の端にそれっぽく崩した名前を書いてくれた。
「でも、どこの景色なんだろうね。
どうやって探すの?」
スケッチブックに写し取られた景色を見ると、やっぱり何処かで見たことあるような気がした。
その記憶は遠く、雨の帳の向こう側で淡く揺らめいていた。
「千尋?」
深雪が心配そうに私の様子を窺っていた。
「何処かで見たことある気がするの。
だから、まずお母さんに聞いてみようと思う。」
私自身の記憶なのか、それとも…。
母なら”千尋”の幼い頃のことを知っていると思った。
「何でそんなにその場所が気になるの?」
夢の内容の詳細は深雪に話していなかった。
「見たことある景色が何度も夢に出てきたら気になるでしょ?」
あまり心配をかけないように、私が誰かに殺されることは伏せた。

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