「管理会社の方に連絡を入れてください」とお願いしても、「紹介したのはお前らなんだから助けろ」と話にならない。
先輩が母親の相手をしてくれている間に管理会社に連絡を入れたが、「担当が休みだから分からない」と言われ詰みとなった俺は、紹介したのが俺という理由で親子のところに行く事になった。
クレームは嫌だなーと思いながらもマンションに着き部屋に向かうと、そこには異様な光景が広がっていた。
親子の住む部屋の扉は開け放たれ、食器や時計なんかが廊下に散乱。
電話をかけてきた母親が廊下にうずくまり、祈るような仕草で部屋の中に向けて中国語で何かを言っていた。
そのあまりの状況に一瞬思考が止まったが、会社を出る際に「何かあったら連絡しろ」と先輩に言われていたのを思い出して電話を入れる。
先輩は「わかった、すぐに行く」と言って電話を切ったが、このままボーっと待つわけにもいかず、俺は「どうしたんですか」と母親に声をかけた。
母親は俺の声には反応せず、泣きながら何かを祈り続けていた。
部屋の中に何かあるのかと視線を向けると、そこには息子がいた。
息子は玄関を入ってすぐの廊下の壁に頭を打ち付け続けていた。
ゴッ ゴッ
と鈍い音が聞こえる中、額と壁を自らの血で汚しながらも虚ろな顔をした息子に心配よりも先に恐怖を感じた。
俺がすぐに救急車を呼べたのは、たぶんこの状況を一人で受け止めることができず、誰かに押し付けたかったからだと思う。
救急と警察も来て事情説明をした後、俺は解放された。
あとから合流した先輩とコンビニで休憩しながら、「あれ何だったんですかね」と何となく聞いてみたが、先輩は「んー…知らん」と切り捨てた。
この件はすぐに俺の手から離れ、その後どうなったのかはわからない。
けど、たぶんまともな終わり方はしてないだろうな、と思う。
そこから1年くらいして俺は不動産を辞めたけど、辞めるまでの間に事故物件を紹介することだけはしなかった。
何があるか分からないし、何かあっても俺にはどうすることもできないから。






















こわ!