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心霊

うるたさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

事故物件
長編 2025/09/10 15:25 3,182view
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安さの理由は当然心理的瑕疵になるわけだけど、その部屋は地元の仲介業界隈では借りた人が1か月持たずに出ていくことで有名な所だった。

だからだろうか。その物件のADは脅威の10。ただし、最初は2で契約成立後に半年以上契約が継続された場合のみ残りの8を支払うという変わった条件だった。

親子は今まで紹介されたものが軒並み不満だったことから、この物件に食いついた。
俺としてもこういった無理難題を吹っかけてくる人を相手にするのは面倒だったし、さっさと終わらせたかったのもあって案内することにした。

親子と一緒に管理会社に向かい、鍵を借りる。
その時の「ああ、あそこか」という諦めたような顔は印象に残った。
普通だったら「よろしくお願いしますね!」みたいな感じで愛想がいいんだけど、それもなし。
淡々とした様子だったのを覚えてる。

実際に訪れたそのマンションは、分譲かと思ってしまう程にきれいな所だった。
広くて明るいエントランス、掃除の行き届いたエレベーターを見た親子は、まだ部屋についていないにもかかわらず「ここがいい!」と興奮していたのを覚えてる。

肝心の部屋だけど、これも予想に反して日当たりの良いきれいな部屋だった。
親子は歓喜し、彼女らの中でもう決定してるというのがわかった。

親子に急かされるように会社に戻り、申請書を前にあの物件について説明をする。
あ、申請書なのは契約できるかどうかは保証人の有無なんかが重要だし、各種書類を含めた契約に必要なものを内見の時には持ってないから。貸主側の準備もあるしね。
この物件を借りる意思があります、というのをオーナーだったり管理会社だったりに先に送ってキープしておく契約の前段階みたいなものだ。

で、肝心の内容だけど…

その部屋はかつて、一組のカップルが借りていた。
時がたってカップルは破局し、彼女のほうが家を出て行った。
残った男は精神を病み、手首を切って自殺を図ったが死にきれず、流れる血で壁に

「この部屋に入ったやつを呪い殺す」

と書いた後、ベランダから飛び降りた。
それ以降、この部屋を借りた人は1か月持たずに退去するようになった。

こんな感じで説明したと思う。

親子はそれを鼻で笑い、「私たちはそんなの信じないから大丈夫。日本人は臆病ですね」と申請書にサインをして帰っていった。

それから契約は特に問題なく進み、親子はその物件に翌月から入居した。
事故物件を契約したのは初めてだった俺も、2日経ち、1週間が経ち、2週間もした頃には親子のことはもう思い出すこともなく仕事をしていた。

そして3週間くらい過ぎた時、会社に一本の電話がかかって来た。

先輩が電話を取った瞬間聞こえてきたのは、受話器越しの声がデスク2つ離れている俺にも聞こえるくらいの大音量。
電話の主はあの部屋を借りた中国人の母親だった。
日本語と中国語が入り混じり、受話器の音割れもあって何を喋っているのかが理解できない。
「落ち着いて」と先輩が宥め事情を聞こうとするも、「とにかく助けてほしい」と繰り返す母親。

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コメント(1)
  • こわ!

    2025/09/11/16:56

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