「お姉さん来た!ドアの所からこっちに手振ってる!やっぱりお姉さん私と遊びたいのかな」
姪が言うにはドアから半身だけ出して、微笑みを浮かべながら手を振っているらしい。
兄は姉に姪っ子を連れて仏間に行く様に指示を出すとその女の覗いているドアを勢いよくバタンと閉めて台所へ行き、小皿に乗せた盛り塩をドアの前に置き、酒に浸した手拭いの様なものをドアノブに結びつけた。
「意味ないとは思うけどやらないよりはマシだろう」
ブツブツと呟いた後、リビングに隣接した仏間へと向かいそこに敷かれていた姉と姪の枕の上にも盛り塩を置いた。
本人も言っている事なのだが兄に霊感は無い。ただ子供の頃からオカルトが好きでオカルト好きな仲間も多い。そこから様々な知識を得ているのだろう。
姉と姪が寝付くまでの間、僕と兄は何事もなかったかの様にテレビを見ながら談笑した。
その間にも何かドアを擦る様な音や廊下を歩く足音、階段を上り下りする音など聞こえたがなるべく気にしないように平静を装っていた。
時間は午前一時を過ぎていた。
「今日は念の為俺とお前で交代で起きておこう。お前先に寝ろ。三時間後には起こすからな」
そう言われて僕も仏間へと向かい敷いてある布団に潜り込んだ。
寝よう寝ようとはしていてもなかなか寝付けずにゴロゴロと布団の中で寝返りを打っていた。
姉と姪は寝付いたのだろうか?すぅすぅと寝息が聞こえてくる。
早く寝ないとあっという間に交代の時間が来てしまう。そう思うと余計に目が冴えてくるものだ。
しばらくの間寝返りを繰り返しているとようやく睡魔が襲ってきた。布団の奥へと沈み込んでいく様な感覚。意識がまどろみ始めようやく眠れると思っていたその時。
ガラガラと玄関の扉の開く音がして、誰かが室内に入ってくる足音が聞こえた。足音は真っ直ぐリビングへと向かい、何やら会話が始まった。
兄が問題なく会話をしているから恐らくは誰か親族が帰ってきたのだろうと思い少し会話に聞き耳を立ててみた。
「いやぁ。盲腸だった」
「急性虫垂炎って奴?」
会話の内容から察するに病院に付き添っていた姉Bの旦那が帰ってきて兄に状態を報告しているのだろう。
だが何か引っ掛かる。違和感。声の感じがあの二人とは思えない。何かこう、もう少し歳を重ねたしゃがれた声に聞こえたのだ。
「もう少しで破裂する所だったんだけどなぁ。処置が早かったからしばらくは入院だがそこまで立たずに退院だとさ」
「気付かれたのが早かったんだろう。人もたくさん出入りしていたしまぁ仕方ない事だわな」
「うーん。残念だ。そっちの方はどうだった?」
「こっちもダメ。全然来てくれない。階段から落とすつもりだったんだけどねぇ」
そう答えたのは女の声だった。一瞬姉かとも思ったが声質が全然違っていた。
「どっちかは連れて行きたいなぁ。子供の方は今は寝ているのか?」
「寝てるけどそっち見たら凄い睨まれるよ」
女は少し苦笑いにも似た声色でそう言った。
「おぉ。なるほど。怖い怖い。ここは無理か。それじゃあ病院で粘ってみるとするか」

























いい話、、