奇々怪々 お知らせ

ヒトコワ

彩霊さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

祈る老婆
短編 2025/08/25 23:44 1,682view

これは私が社会人になって間もない頃に体験した話です。
私は20代の頃、とある住宅地で一人暮らしをしていました。住んでいたのはアパートの1階で、部屋の前には4畳ほどの庭と、その先には大きな砂利の駐車場があり、角部屋だったため横を細い道路が通っていました。
比較的自然の多い土地柄、風情ある街並みに加え、近隣住民も皆優しく接してくれるため、コミュ障で内気な私でも自然と街になじむことができ、快適な社会人生活を送っていました。
真夏のある日、深夜まで海外スポーツの中継を見て夜更かししていた時でした。
外から何かうめき声のようなものが聞こえてくるのです。
最初はテレビに夢中で気付かなかったのですが、どうやら外に人がいるらしい。その時深夜2時頃で、外に人がいる方が珍しい時間帯でした。丁度スポーツ中継も終わり、気になっていた私は窓から外を確認しました。
カーテンの隙間から恐る恐る外を見ると、そこには何か人のようなものが、庭と駐車場の境目辺りに見えました。そしてその人物が、何かぶつぶつとつぶやいているようでした。
窓を開け、庭に出ると、その様子が分かりました。
街頭に照らされてうっすらと見えるその人物は、どうやら腰の曲がった老婆のようでした。
そしてその老婆は、駐車場に向かって合掌しながら何かぶつぶつとつぶやいています。

聞き耳をたてると、どうやら何かお願い事を言っているようでした。
「*****ができますように」
「*****が健康でありますように」
そんな声が聞こえ、上手く聞き取れないながらも、何か祈りを捧げていることは分かりました。そして、私のことは一切気にする様子もなく、祈りを続けるのです。
正直この時点で恐怖心が勝っており、今すぐ部屋に引き返そうかとも思ったのですが、このまま祈られ続けるのも気味が悪いし、部屋にいても聞こえてくる声が気になって眠れないのは困るため、仕方なくその老婆に話しかけることにしました。
「あの、すみません」
そう声をかけたものの、老婆は意に介さず祈りを続けます。
「あの、何してるんですか」
少し強めに言ってみましたが、それでも反応がない。肩を叩いてみても、老婆はただひたすら祈るだけでした。
「あの、何時だと思ってるんですか!迷惑なんでやめてください!」

無視され続けて少し苛立ち始めた私は、そう強く老婆に言い、肩を掴んでこちらを向くように力を入れました。それでも老婆は祈りを続けるだけでなく、老婆とは思えないほど強い力で、肩を掴んでいた手を振りほどきました。
その時点でもう駄目だ、これ以上何を言っても無駄だ、と悟った私は、
「これ以上続けるなら警察を呼びます」
と伝えました。
すると、老婆はこちらを向き、祈るのをやめ、しばらく見合ったのちにその場を去っていきました。
結局その後老婆を見ることはありませんでした。
その出来事から1週間程度経った頃です。
私が会社から帰宅する際、アパートから少し離れた家の前にパトカーが停められているのを見つけました。
何か事件でもあったのだろうかと気になって、野次馬をしていた顔見知りの人に事情を聞きました。
どうやらその家で母親が娘を包丁でメッタ刺しにしたという殺人事件があったそうです。
しかも娘を殺害後、遺体を放置してそのまま生活をしており、事件が発覚したのは犯行から1か月以上経った後だったのです。
そして、その母親というのが、あの深夜に祈りを捧げていた老婆だったのです。

1/2
コメント(0)

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。