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ヒトコワ

彩霊さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

金縛り
短編 2025/09/02 23:43 1,203view

まずこの話について、一つ申し上げておかなければなりません。
カテゴリをヒトコワとしていますが、私自身この話がヒトコワなのか心霊なのか未だに分からないのです。
この話は大学時代の友人自身の体験談なのですが、聞いたとき心霊現象であってほしいと、そう強く願った、そんな話です。

大学の友人、ここでは高橋とします。高橋君は田舎から出て一人暮らしをしながら通う大学生でした。
高橋君の家は母子家庭で貧しく、本人も奨学金を借りながらバイトもこなし、さらには家に仕送りもして、それでも成績は優秀という、見上げた好青年という印象でした。
そんな彼が小学生の頃、まだ父親がいて家族3人で暮らしていた時の話です。
その父親というのが、ろくに働きもせず酒女ギャンブルに明け暮れる、どうしようもない男だったといいます。そんな父親に代わって母親が働きながら家事育児もこなし、家庭を支えていました。

ある日の夜、寒さの厳しい冬の日のこと、高橋君は金縛りにあったそうです。
体に圧迫感を覚え、次第に全身が動かなくなり、目の前が真っ赤に染まったかと思うと、少しずつ首を絞められるような感覚があり息ができなくなる、という恐ろしい体験でした。
苦しい、もう死ぬ。そう思った瞬間、ふっと体が軽くなり、目が覚めて息もできるようになったといいます。

寝汗をびっしょりと掻き、息も絶え絶え。真っ暗な部屋で豆電球だけが妖しく光る、その光景が忘れられず、その日以降夜寝るのが怖くなってしまったといいます。
しかし眠気は毎晩襲ってくるわけで、小学生の子供にはその睡魔に逆らうことができず、気づいたら朝になっている、しかし疲れは取れない。そんな日々が続きました。
そして、あの時の光景を忘れつつあるときに、また同じように金縛りにあい、また恐怖が思い出される。そんな地獄のような毎日を過ごしていたそうです。

そんな日々がしばらく続き、疲労と眠気がピークを迎えたある日のこと、高橋君は炬燵で意識を失うように眠ってしまいました。
すると、あの金縛りがまた起こったのです。
しかし、普段とは異なる点がありました。体が動くのです。
息ができず苦しい中、高橋君は頑張ってもがき、手足をバタつかせながら、バッと目を開けました。
明るさに慣れず視界がぼやける中、そこには馬乗りになりながら、鬼の形相で自分の首を絞める父親がいました。
父親と目が合うと、首を絞めていた手の力が抜け、息ができるようになります。そこからの1秒、はたまた2秒。色々な考えが頭をめぐりました。
なぜ父親が、自分の首を絞めて、そもそも外出していたはず。いつ帰ってきたのか。今までの金縛りも父親が首を絞めていたのか。なぜ今まで殺そうとして殺せなかったのか。

しばらく見合ったのち、父親はふっと真顔になり首を絞めていた手を離しました。
そして馬乗りになっていた状態から立ち上がり、玄関の方へ歩いて行くのです。
高橋君はそれを呆然と見つめることしかできませんでした。
玄関のドアが開く音がし、どうやら父親は外へ出ていったのだと分かりました。
それから父親が家に帰ってくることはありませんでした。
父親の存在が薄れたある日に、とある山中で首を吊っている遺体として発見されたとのことです。
それ以降、高橋君は母親と二人で生活しているそうです。

今まで体験した金縛りは、父親が彼を殺そうとして首を絞めていたのを金縛りと勘違いしていただけなのでしょうか。それとも父親の生霊のようなものが、彼を金縛りに合わせていたのでしょうか。
今となっては分からないことですが、私は心霊であって欲しいのです。
なぜなら、いくら大人と子供とはいえ、首を絞めながら全身を動かないように押さえつけることなんて無理なんですよ。1人ではね。
唯一の家族を大切にする高橋君には、口が裂けても言えませんが。

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