小学生の頃の話です。
夏休み前の学期末、計画性のない私は家に持ち帰らなければならない荷物が山ほどありました。
重たいランドセル、鍵盤ハーモニカ、図工の作品、習字バッグ。
両手はふさがり、肩も腕も痛くなるほどの大荷物です。
しかもその日は朝から土砂降りでした。
両手がふさがり、傘なんてまともに持てません。
肩で引っかけるようにして無理矢理差していました。
おかげで自然と前かがみになって、視界に入るのは自分の足元とアスファルトの一部だけ。
まるで世界がそこだけになったみたいでした。
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家の近くまで来たとき、数メートル先に何かが見えました。
誰かが立っているようでした。
でも見えるのは、白いスカートと黄色のパンプスだけ。
あんなに雨が降ってるのに、なぜか濡れていないように見えたのを覚えています。
全体が灰色がかった世界の中で、その足元だけが浮かび上がっているようでした。
なんとなく場違いというか、異質な感じがして胸がざわっとします。
でも、重たい荷物を持ったまま立ち止まるわけにもいかず、そのまますれ違おうとしました。
視線を地面に落として、通り過ぎようとした、そのとき──
「ねえ」
女の人の声。
息が止まりました。
視界の外、見えるはずのない周囲の空気が、急に“感じられる”ようになったんです。
──黄色いパンプスが、ゆっくり近づいてくる。
傘の縁に、細くて白い指がそっとかかり──こちらを、覗き込もうとしている。
……でも、顔は見えない。
怖くて、目を閉じました。視界がふっと暗くなって。
それでも気配は、じりじりと近づいてくる。
顔の高さまで。耳元まで。息が触れそうな距離で──
























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