友人のHが慌てて言った。
「はあ?お前何言ってんだよマジで。大丈夫かよ?おい」
「うん。全然大丈夫。本当に大丈夫だから、Hももう帰っててよ。マジで心配ないからさ」
妙に落ち着いた俺の声に、Hはどんどん顔をひきつらせていた。俺は本気で自分の身が危ないと感じていた。しかし、トンネルに向かう足が止められない。一歩進むごとにとんでもない安心感に襲われる。
やばい、やばいやばい!
内心では焦っているのに、体が自分の意識と切り離されたような、とても不気味な感覚だ。
やがてトンネルの入り口にたどり着いた。
トンネルの中で、何かが立ってこっちを見ていた。真っ暗闇なのに、なぜか俺にはその映像が「見えた」。
「おい!いい加減にしろって!やばいって!帰るぞ!」
「いいから、放っておいて先に帰ってろよ。俺は大丈夫だから」
「大丈夫じゃないって!」
トンネルまであと一歩という所で、Hが俺を羽交い絞めにした。
「帰るぞ!早く!」
「離せって!俺はトンネルに行かないと!」
「いいから早く来い!」
「離せ!」
俺はHに力づくで引きずられ、トンネルから引き離された。先に山を下りていた3名が俺たちを見つけ、車まで連れて行ってくれ、気の利く奴が持参していた塩を頭から振り掛けられ、とたんに俺は脱力した。
そこから車で帰る間、俺は頭がぼうっとして、体に力も入らず、ぼんやりしたままだった。
あれから二度と心霊スポットには行っていない。遊び半分で行くと、本当に危険なのだと身を持って知ったからだ。
特に中途半端に霊感を持つ人間は危険なのだと、後日人から聞いた。
これは大して怖くはないけど、紛れもなく俺の実体験だ。























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