8年くらい前の話になります。
当時、仕事で、家から片道70キロほど離れた場所に行くことになりまして。
片道で70キロといっても、高速道路を使えるわけじゃなくて、ほとんどが海沿いを走る一般道なんです。
行きはまだ明るかったからよかったんですが、帰りが遅くなってしまって…家路についたのは夜の11時頃でした。
その道は、片側一車線の細い道で、街灯なんてものもほとんどないんです。
昼間なら景色のいい観光道路なんでしょうけど、この時間になると車通りもほとんどなく、波の音とエンジン音だけが耳に残るような道です。
その日は仕事が立て込んでいて、朝からほとんど休みなしで動いていたので、正直、相当疲れていました。
眠気もひどくて、途中からまぶたが重くなって、ハンドルを握る手が危うく震えるくらいだったんです。
「このままじゃ危ないな」と思い、付近にコンビニなどもなかったため広めの路肩に車を停めて、少し仮眠を取ることにしました。
目が覚めたのは、零時を回った頃。
窓の外は当然真っ暗で、波と風の音がやけに大きく聞こえていました。
眠気もそれなりにおさまっていて、冷静になるとそんな状況に不安を感じ「はやく帰ろう」と再び走り出したんです。
ところが。
ほんの数分走ったあたりで、突然、道路の真ん中に人影のようなものが現れました。
あり得ないんです、街灯なんてない場所で、しかも零時過ぎに、そんなところを歩いている人なんて…。
そう思い込んでしまっていたこともあり、とっさには避けきれませんでした。
ブレーキを踏むのが遅れて、ドンッと、何かにぶつかった衝撃があったんです。
首筋が凍りつくような感覚に包まれ一瞬で目が覚めました。
すぐに車を停めて飛び出し、車の前に回り込みました。
……でも、そこに倒れているはずの人影はどこにも見当たらない。
アスファルトの上には、大量の砂が散らばっていただけでした。
海沿いだからって、道路の上が、それも一部だけ砂で覆われるなんてこと、まずあり得ません。
ましてや、強い海風も吹いていたので、そうして見ている間にも砂は散っていきます。
疑念を振り払うように、懐中電灯を持ち出して周囲を探しました。
ガードレールの向こうはすぐに砂浜でしたが、足跡のようなものも見つからない。
結局、人を見つけることはできず……気のせいだと思うことにして警察に通報することもせず、車に乗り込んでそのまま帰宅しました。
それから、妙に“砂”が目につくようになったんです。
路上で破れた土嚢からこぼれ出た砂。
家の玄関に風で吹き込んだ砂。
気づけば靴の中に入り込んでいる砂。
そんなの珍しくもなんともなかったのに、「また砂だ」と思うことが増えていったんです。
まるで付きまとわれているような感覚でした。
“意識しないように意識する”ほど、あの夜の砂と結びつけようとするのがやめられなくなっていきます。























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