天気雨だ。
空を見渡したが雨雲は見当たらない。
おかしい。
彼岸渡りの条件に天気雨はない。
引き返すか・・・?
いや、ここまできたのだから、結果はどうあれ確かめる価値はある。
空にはうっすらと月が見える。
雨粒は夕日の光を受けてキラキラと輝いている。
景色がより色鮮やかに夕日に照らし出されている。
一歩進む。
雨粒が地面を叩く音が遠のく。
葉を滴る雫の向こう側の景色がくっきり見える。
時が止まったような感覚に襲われる。
踏み出した足はいつまでも地面に付かない。
雨粒は輝く水球となり静止している。
感覚だけが時を刻み続ける。
街並みが溶けていく。
夕日を黒い影が蝕む。
茜色の空を瑠璃色が侵食し、脈打つように東雲色へと変化した。
世界が急速に遠のくのを感じた。
私は空に向かって落ちている。
私の住んでいた星は米粒大まで小さくなっている。
私はどこに向かって落ちているのだろうか。
自分がどのような形であったかも思い出せない。
もはや、落ちているのか昇っているのかも分からない。
真っ暗だ。
私の呼吸する音さえしない。
永遠に光一つない闇の中を落下することが彼岸の世界なのか?
どこまでも落ちていく。
もう、どれほど時間が経ったのだろう。
ラッパの音がする。
どこまでも遠くに届くような澄んだ音だ。
そのラッパは何かの終わりを告げたのだろうか。
夥しい量の虫の羽音がする。
悍ましく不愉快な音は誰かを呼ぶ声なのだろうか。
不意に視界に白金色の輪をもつ真っ黒な太陽が見えた。
私はこの「奈落」に向かって落ちていた。
「奈落」の底には何が待っているのだろうか。
遥か遠くの闇の中から、それは確かにこちらを見ている。
この彼岸渡りは失敗だ。
もっと悍ましいものと邂逅している。
私はこの「奈落」からもう戻れないかもしれない。
その時、私は何かに手を引かれたような気がした。























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