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不思議体験

nickningenさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

坂道のアポリオン
短編 2025/08/11 00:57 1,762view

天気雨だ。
空を見渡したが雨雲は見当たらない。
おかしい。
彼岸渡りの条件に天気雨はない。
引き返すか・・・?
いや、ここまできたのだから、結果はどうあれ確かめる価値はある。
空にはうっすらと月が見える。
雨粒は夕日の光を受けてキラキラと輝いている。
景色がより色鮮やかに夕日に照らし出されている。

一歩進む。
雨粒が地面を叩く音が遠のく。
葉を滴る雫の向こう側の景色がくっきり見える。
時が止まったような感覚に襲われる。
踏み出した足はいつまでも地面に付かない。

雨粒は輝く水球となり静止している。
感覚だけが時を刻み続ける。
街並みが溶けていく。

夕日を黒い影が蝕む。
茜色の空を瑠璃色が侵食し、脈打つように東雲色へと変化した。
世界が急速に遠のくのを感じた。
私は空に向かって落ちている。
私の住んでいた星は米粒大まで小さくなっている。
私はどこに向かって落ちているのだろうか。
自分がどのような形であったかも思い出せない。
もはや、落ちているのか昇っているのかも分からない。
真っ暗だ。
私の呼吸する音さえしない。
永遠に光一つない闇の中を落下することが彼岸の世界なのか?

どこまでも落ちていく。
もう、どれほど時間が経ったのだろう。
ラッパの音がする。
どこまでも遠くに届くような澄んだ音だ。
そのラッパは何かの終わりを告げたのだろうか。
夥しい量の虫の羽音がする。
悍ましく不愉快な音は誰かを呼ぶ声なのだろうか。
不意に視界に白金色の輪をもつ真っ黒な太陽が見えた。
私はこの「奈落」に向かって落ちていた。
「奈落」の底には何が待っているのだろうか。
遥か遠くの闇の中から、それは確かにこちらを見ている。
この彼岸渡りは失敗だ。
もっと悍ましいものと邂逅している。
私はこの「奈落」からもう戻れないかもしれない。
その時、私は何かに手を引かれたような気がした。

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