ただ、俺は然程気にならなかった。
積極的に時間を戻そうだなんて思うこともなかったからだ。
普通に生きていれば普通に嫌なこともあったが、だからといってそれを帳消しにしようとも思わなかったし、前述の通り下手に変えてしまうのもどうかと思ったし、むしろあと二回も人生の裏技が使えるんじゃんラッキーくらいにしか捉えていなかった。
タイムリープのことなんてほとんど忘れながら俺は中学を卒業し、高校生になる。
で、モスバーガーでアルバイトをしていた俺はある日のバイトの帰り道に暴走していたミニバンに撥ねられてしまう。
飲酒運転で百四十キロを超えた暴走車は俺を三十メートルくらいふっ飛ばしてから電柱に突っ込んで、運転していた十九歳の山内裕大は即死する。
山内の名前も生死も知らずに俺は通行人が呼んでくれた救急車で病院に搬送されるけど、頭もパックリ割れて体内の血液が全て流れ出てるんじゃないかってくらいの流血を見ながら百%死ぬなと思い、そして、あ、時間戻せばいいんじゃんと虫の息で一週間前に戻ることを願う。
すると俺は瞬く間に意識を失い、そして覚醒して実家の風呂場で全裸のままシャンプーボトルを握りしめている。
すかさず頭を触り、なんともないなと安心したあとには右腕を確認。
ホクロはやっぱりひとつなくなっていて、六つもあった黒い点はラストひとつとなってしまった。
危ない危ない。危うく死んでしまうところだった。
安堵しながら俺は一週間後のバイトを仮病で休んだ。
すると、ニュースで山内裕大が飲酒運転の末ひとりの中年男性の命を奪ってしまったことを知る。
亡くなったのは千葉孝さん四十八歳で、仕事帰りだったのかは定かではないけれど、俺が轢かれた場所と同じ場所で山内に殺されてしまったらしい。
罪悪感はなかった。俺は俺が死ぬことを避けるために別の人間に死んでもらったわけだけれど、でも俺が死ぬことを俺が避けるのは当たり前だと思ったし、もし神様が今の俺を見ていて「こいつけしからねーな」と怒っていたとしても、俺は神様から授かった能力を自分のために使っただけで、だったら俺にこんな能力を与えてしまった神様のせいでもあるんじゃないかと言い返す準備をしながら、変わらぬ生活を続ける。
高校を卒業して、俺は自動車整備学校を進路先に選ぶ。
車が好きというわけでもなければ、もちろん山内のせいで車に対するトラウマがあるとかでもなく、単純に機械いじりをしていれば他人とあんまり話さなくてもいいかなみたいな理由だった。
バイトを通して学んだことのひとつに、人間関係の面倒くささみたいなものがあって、同僚はもちろん、来店する客の横柄さは俺を他人から遠ざけさせてしまう。
元々お喋りとかでもなかったし、一人っ子だからか、孤独にも耐性があったのかもしれない。俺はひとりでいるのが好きだったし、誰かと話すことよりも、機械をいじったりゲームをしたり本を読んだりすることのほうが心穏やかでいられた。
二年間学校に通い、俺は自動車整備士二級を取得する。で、就職先をディーラーにしようと思っていたけれど、通勤時間やノルマみたいなのを考えたら、近所にあるカーショップのほうがいいのではとそちらに就職する。
もちろん全てが気楽というわけではなかったけれど、年齢が近い社員やバイトも多くて、まああまり気を使わない職場ではあった。
そして俺はそこで桜と出会う。
社会人二年目だった俺は、大人としての魅力も経験も、余裕も金も全部なくて、ただ仕事を淡々とこなしていくだけの男だった。
桜はショップのアルバイト店員で、時々仕事中に話すだけの同僚だったけれど、なぜか一緒に食事に行ったり買い物に行ったりする仲になり、気付けば付き合うことになっていた。
桜は奥ゆかしさがあるのに積極的でもあって、ひとつ歳下であるにも関わらず俺を引っ張ってくれた。
そもそも、付き合う前から食事や買い物に誘っていたのも桜の方からで、告白も桜からだった。
俺も桜のことが好きになっていたから二つ返事でOKしたものの、やっぱり不安でしかなくて、俺のどこがいいんだと照れながら訊くと「喋らないとこ」と笑いながら言った。
無口な俺はそこそこお喋りな桜とのデートが楽しくて、どんどん桜のことが好きになる。桜は外見も可愛くて、小柄でちょこまかと動く様がいかにも小動物的で『男性が好きそうな女性像』を体現していたけれど、でも桜の魅力はそれ以上に、言動のひとつひとつが美しいところだと俺は思う。
彼女の放つ言葉のひとつひとつが、所作のひとつひとつが、俺にはとても眩しく感じて、桜が一言話すたびに、俺に笑顔を向けるたびに、俺は彼女のことを好きになっていった。
桜と二人で安い居酒屋で飲んでいたある時に、俺は珍しく結構酔っ払っていて、桜に俺のタイムリープの話をする。























なんとなく分かります。正直きついですよねえ
最後の場面でもう一度過去に戻る的なのを期待したけれど意外にもそのまま逝ったな