黒電話の着信音って、なんであんなに怖いんだろう。
介護中だった母が死んで、実家に1人、取り残された。
認知症を患っていた母の介護はとても大変で、
電話が鳴ると泣き叫ぶわ、
カーテンを開けようとすると暴れるわで、ほんとに参っていた。
毎日疲弊していたし、幼い頃から、母にはあまり愛情を注いで貰えなかったから、正直、死んでくれてホッとしている自分が居た。
とはいえ、母が死んだその日に介護保険が下りなくなり、もっと前に死んだ父の遺産も、もう殆ど底が見えてきていた。
介護離職で既に職を失っていた私は、元の会社に戻ることも考えたが、あのブラックな職場には戻りたくなかった。
でも、働かなきゃ生きていけない。
生きるために、働かなければ……その一心で必死にバイトを見つけた。
バイトをしながら就職活動。なかなか就職先は決まらず、結局、介護していた時よりも疲弊して家に帰る日々。
そんなある時だった。
いつものように、バイトを終え、私一人になった家に入ると、その瞬間に黒電話が鳴った。
ジリリリリリリ……
不気味な黒電話の音。そういえば、介護中の母も、この音を妙に嫌った。認知症になる前は、そんなこと無かったのに。
私は疲れていた。もう夜も遅い。こんな時間にかけてくるような非常識な人からの電話など、出る必要は無い。そう言い聞かせて、無視をすることにした。
ジリリリリリリ……
なかなか相手は諦めない。ずっと鳴っているその不気味な音に痺れを切らし、このままこの音に耐えるのも不愉快だったので、渋々受話器を取った。
「もしもし……?なんの用でしょうか。」
イライラがかなり全面に出ている言い方だったと思う。
「………………。」
相手は何も言わなかった。ただ、ゴォーー…と、何か大きな機械の駆動音のような音だけが聞こえるだけだ。
「もしもし?イタズラですか?やめてください」
ピシャリとそう言って、乱暴に受話器を置いた。
腹立たしい気分が治まらなかったが、疲れていたし、その日はそのまま布団に入り、眠りについた。
それから、家に帰ると、その瞬間にあの音が鳴った。
ジリリリリリリリ…………
不気味な音が家中に響くのは、かなりストレスだ。
出たくもないが、毎回出てしまう。その度に、大きな機械の駆動音だけが聞こえてくる。
初めはかなり鬱陶しくも思った。電話を出てすぐに切ることも考えたのだが、1度だけ面接した会社の人からの電話だった事があり、それ以来すぐに切るという選択肢は消えた。

























お母さんはこの男に気づいていたから窓を開けようとしたときも黒電話がなったときも嫌そうにしていたのか。