出なければいけない電話、出ても無音。
だんだん不気味にも感じてきて、精神的にも肉体的にも、かなりやつれてきた。
その不意に、普段なら思いもつかない事が浮かんでしまう。
「もしかして、お母さん?」
母は、死んでせいせいしたと言わんばかりの私を見て、怒っているのではないか。
或いは、疲弊した私を見兼ねて、心配をしているのではないか。
何かを伝えたいが、伝える手段が無い。だから電話をかけているのではないか。あの世から。
だが、母の声は届かない。機械音のような音は、あの世の音なのではないか。
私は霊を信じない。でも、あの頃の私は疲れすぎていた。誰かのイタズラという線は、何故か浮かばなかった。
ある時、また同じように電話が鳴った。
「もしもし。木村です。」
「…………。」
まただ。無音の中、機械の駆動音。
思い切って、こう話しかける。
「お母さん……?」
「…………。」
ダメか。やはり母は声を伝えることが出来ないんだ…
……なんて、馬鹿か私は。幽霊なんて有り得ない。
自嘲気味に受話器から耳を離そうとする。
その時、声が聞こえた。
「……い、つも……」
それは間違いなく母では無かった。
低い、ねっとりとした男の声だった。
「……いつも…… 見てるよ……」
ガチャ……ツーツーツー…………
背筋が凍りつくのを感じた。
同時に、ある事に気がついた。
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お母さんはこの男に気づいていたから窓を開けようとしたときも黒電話がなったときも嫌そうにしていたのか。