恵梨香ってほんと優しいよね〜ってよく言われる。
でも私は私が優しくないことを知っている。
私を優しいと見做す人は私の本心を見抜くことができていないわけで、だからこそ私はそんな彼ら彼女らに優しく振る舞うんだけど、でもそれは優しさとは言えないと自分では思ってるんだよね。
だって、自分のための言動だから。
周囲を利用するために、笑顔を振りまいているだけだから。
私の優しくない部分を看破できる人間なんてこの世のどこにもいなくて、だから私は誰にも心を開かない。
上辺だけで接するし、相手を問わずの柔和な対応も、正直面倒くさいからでしかない。だって真剣に話すとなると、それ相応の体力とか精神力を使う必要があるし、それって面倒じゃん。
真帆とか中川さんとか雄大とか、みんな私と超仲良し! みたいな感じで接してくるけど、私は彼らに心の内を晒したことは一度もないし、どちらかといえば見下している。
そんなことにも気づかず、真帆なんて「うちらめっちゃ気が合うし、多分一生親友だよねー」とか言っててクソウケる。
大学を卒業すると同時にとある広告代理店に就職するんだけど、上司からのセクハラがキツすぎて2ヶ月で辞める。
で、とりあえずバイトを転々としながら生計を立てつつ、一番時給の高かったコールセンターに定着。クソみたいな客のクレームとかを受けつつ、割と自分の性格に合ってるんじゃないかと思い始める。
基本的に他人を見下してるから、クレーム相手もバカだろこいつって思いながら適当に謝罪の言葉とかを並べ立てていると、相手の怒りもだんだんと収まってきて納得してくれる。
特にストレスにも感じなくて、やっぱバカな奴って怒りっぽいんだなとか思いながら2年くらい働くんだけど、ある日、私が対応した客が包丁を持って私が働く新宿にあるビルの7階の南側にあるフロアに現れる。
きゃーとかうわーみたいに悲鳴を上げて逃げ惑う同僚たちは、「昨日話した山崎って女はどこだ!」って叫ぶ太った中年男にどんどん刺されていく。
恐怖がピークに達している同僚たちは、神に生贄を献上するかのように一斉に私へと視線を向け、犯人は私の同期だった野川さんって女性の首に刺した包丁をずずずと引き抜いて「お前かぁ」と私に狙いを定める。
椅子に座ったまま、ゆっくり歩いてくる犯人をじっと見つめていると、男性社員の何人かが犯人に飛びかかって、床に押さえつける。
「離せぇー!」って叫びながら右手に持った包丁を振り回して、自分の背中に乗っかっている男性の足とか腕とかを斬りつけるんだけど、誰かが通報していたのか、駆けつけた警官にあっけなく連れて行かれてしまう。
死者4名、重軽傷者6名のそこそこ大きい事件だったけど、間抜けな犯人はターゲットの私を無傷のままに、おそらく死刑になってしまうだろうと思うと笑ってしまう。
馬鹿過ぎるでしょ。クソウケる。
その事件の半年後、知り合いの紹介で居村さんという男性と出会う。
彼は色んなアプリを開発し運営してるベンチャー企業の社長らしいのだけれど、ネットには疎い私はアプリ名を聞いても全くわからない。
話していても楽しくはないし、特別かっこよくもないけど、年収は二千万くらいあるとのことで、とにかく羽振りが良かった彼と私は何度も会い、出会って4ヶ月で入籍する。
私も特別美人でもなければ可愛くもないんだけど、男が喜びそうな会話はそれなりに得意で、相手の懐に入り込むのはとても容易だった。
これまで付き合った人数は実際の十分の一で伝えたし、一途だけど貞操観念はガチガチで、好きになったらその人のことしか考えられないという私を演じると、彼は私を大事にするよと抱きしめた。
嘘で固めた私の半生をいとも簡単に信じ込んだ頭の悪い社長さんは、私を溺愛し、言葉通りに私をとにかく大事にした。
こいつも頭悪すぎるよな。全部嘘なのに。クソウケる。
結婚して1年後に妊娠し、無事に出産。私達夫婦のどちらにも特に似ていない、なんとも特徴のない男の子を私は無心で育てていく。
子供は好きでも嫌いでもないけれど、自分の子供だろうと興味がない私は、特に苛つくこともなく、こいつも馬鹿なんだろうなって見下しながら適当に相手をし、家事をこなし、気づけば息子は小学生になっていた。
そして私も30代になっていて、色んなところに衰えを感じ始める。
息子は割としっかりしていて、手もかからない子だったので、暇な時間ができた私はパートでもしようかなって求人サイトとかを見てたら、マッチングアプリの広告が出てきて、なんとなく暇つぶしに登録してみるかって感じでプロフィールを書き込む。
























この人、死ぬのは怖くないのかな?
ほんまにそう思う