引き離した瞬間、Bが老人を蹴飛ばしました。
鈍い音をたて、老人が茂みに倒れこむ。
その瞬間、ガシャリと何かが落ちる音がした。
「うぎゃおおぁぁあおあうぁぁぁぁあおおん!!!」
赤ん坊の泣き声が一段と激しくなりました。泣き叫ぶ声は最早、断末魔の様な絶叫になっていた。
「堪忍なぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァ!!」
老人も、赤ん坊の声に負けじと叫んだ。
私は老人を直視するのが怖く、物音のした茂みにライトを向けた。
そこには、古びたラジカセが落ちていた。
泥にまみれ、スピーカー部分は割れていたが、そこからもう赤ん坊かもわからない絶叫が流れていた。
Bがそのラジカセを踏みつけるように足を挙げた。
その瞬間、老人とは思えないほど、機敏な動きを見せ、ラジカセに体を覆いかぶさる。さすがのBも踏み下ろす足の軌道をずらした。
覆いかぶさった状態で、
「堪忍なぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァ!!」
と叫ぶ老人、赤ん坊の泣き声も重なり、人の声とは思えない絶叫だった。
「Bっ!!」
私はもう限界だった。Bの腕をつかみ、トンネルへと駆け出す。
トンネルの中では、Aが膝をついたまま動けずにいた。私は声をかけ、腕を引いて無理やり立たせる。
後ろからは、老人と赤ん坊の絶叫が聞こえる。
一度だけ、後ろを振り返りました。
トンネルの構造のせいか、声と機械音が反響し、何を叫んでいるのかは判然としなかった。
振り返ると、暗闇の中で、老人が芋虫のように這ってこちらへ向かってくる影が見えた。
私たちはトンネルを駆け抜け、車まで一目散に走った。
車にたどり着くと、Aが震える手で鍵を開け、私たちは無言のまま車内に飛び込んだ。
エンジンがかかる音が、やけに大きく響き、Aは無言のままハンドルを握り、アクセルを踏み込んだ。
Bは助手席で肩を上下させながら、何かを噛みしめるように目を閉じていた。
その夜は、Aのアパートに泊まった。疲れと恐怖に押し潰されるように、誰も口を開かず眠りについた。

























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