翌朝、私たちは重たい沈黙の中で目を覚ました。
Aはほとんど眠れていないようで、顔色が悪く、目の下には濃い影が落ちていた。
「送ってくよ」とぽつりと呟いたAの声は、どこか遠くから聞こえるような、感情のこもっていないものだった。
アパートの外に出ると、昨日と同じグレーのセダンが停まっていた。
しかし、車の正面下部に、見覚えのないへこみと、赤黒い何かがこびりついているのが目に入った。
乾きかけた泥のようにも見えるそれは、よく見ると、どこか粘り気のある質感をしていた。
「昨日は…こんなのなかった」
Aがぼそりと呟いた。
私はふと昨日のあの赤ん坊の泣き声が、脳裏に響いた。
私とBは顔を見合わせた。
Aは車の正面を見たまま、焦点の合わない目で呟いた
「……堪忍なぁ」
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