山の中の公園とか、たまに百円入れたら見えるタイプの双眼鏡、あるじゃん。
小学生の頃のある日、いつものように昼休みに友人とサッカーしていた。しかし私が放ったシュートが、まるで何かに弾かれたかのようにゴールから逸れた。
「何が起きたんだ」そう笑い驚く何人かの友人を横目に、私はその何かの正体を探りにいった。シュートが決まらなくてイラついていたからだ。
すると、そこには双眼鏡があった。校庭のど真ん中にそれがあって、誰も気が付かないのが不思議だった。友人を呼ぶと、続々と集まってきた。
何人かの子供は先生を呼びに、何人かの子供はどうにかして双眼鏡を使えないかチャレンジしていた。そして、私の友人であるタカシがこう言い出した。
「俺ね、今日親がいないから、お弁当代に百円玉5枚もらってんだ。」
お弁当代を犠牲にお金を投入するタカシに拍手が起きた。そして、第一発見者である私が、双眼鏡を最初に見ることとなった。
そこに映っていたのは、一人の児童だった。おそらく小2くらいだろう。ひどく痩せ細っていて、色白だった。そして双眼鏡から見ている私と目が合うと、その子供はアッハッハ!と爆笑し出した。
その後は急に走り出したかと思うと、屋上の転落防止用の金網を登り、身を乗り出した。
ハッと双眼鏡から目を離し屋上を見ても、現実にはその子供はいなかった。
しかし、もう一度双眼鏡にピントを合わせてみると、その女の子は屋上から飛び降りている真っ最中だった。頭からだ。地面との衝突の瞬間、私は思わず目を塞いだ。
その子は笑って立ち上がり、こちらを見つめ、走ってくる。全身血まみれで、血の隙間を縫うようにして見える真っ白な肌が恐ろしかった。歯茎まで見えるほど口が笑っており、聞こえないはずの笑い声が耳にまで届いた。
私は金縛りのように、その双眼鏡から目を離せなくなっていた。周りの子供からのヤジが飛ぶ中、その女の子はもう30メートル程度にまでこちらへ近づいてきていた。全力で走れば、10秒もかからない距離だ。
その時、友人たちが呼んだ先生が到着した。私は友人によって強引に双眼鏡から引き離された。ふと先生の方を見ると、怪訝そうな顔でこちらを見ていた。
見ると、双眼鏡は跡形もなく消えていた。
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