あれはまだ日の光が強く、外に出るのが嫌なくらい暑かった夏の日でした。
社会人での初めての長期休み、Aが「心スポ行かね?」なんて言い出した。
Aは都会育ち、そういうのにも詳しかった。
正直、暑いしめんどくさいが勝ったけど、せっかくの同期の誘いを蔑ろにするなんて考えは持ってなかった。
同期は俺含め、A、B、Cの四人、ほかのメンツも同じ考えを持ってたのか、みんなで行くことに。
言い出しっぺの責任ってことでAが車を出してくれた。行きの道中、Aの車愛が強すぎてずっと自分の車について語ってた。
普通にめんどかった。ただ言葉にはしなかったが、Aもなんとなく察したのか自然と会社の話、趣味の話、そして心スポの話をしてた。
とは言っても心スポの話はAしか知らなかったから、その話だけはAの独壇場
内容は「今から行く廃ビルは昔、うりふたつの兄弟が喧嘩をしたんだが、あまりにもヒートアップしすぎて弟が兄を殺害した」なんてありきたりなものだった。
もし本当ならその兄弟には申し訳ないが、「しょうもな」が第一に浮かんだ。
それでも心スポと言われるだけはあった。現地に着くと明らかに雰囲気が違う。悪寒が走るってこういうことなんだと思った。
後ろを向けば、まだ明るい活気ある町が見えた。帰りたかった。この時、蔑ろにするつもりはないが本当に断っておけばよかったと後悔した。
「ほんとに兄弟の事件だけか?」って疑問は浮かんだが、調べても出てこない。
でもその空気感にみんな圧倒された。誰も廃ビルを前に足が出せなかった。
最初に動き出したのはA。
A「お前ら、はやく中行くぞ」。
車内の時の元気はなかった。
そのAに続いて俺らも中に入った。やっぱりおかしい。空気が異常なんだ。ただ怖いってのもあるけど、何とも言えない恐怖と違和感、その2つが俺らを襲った。
その建物は三階建てなんだけど、どの階でも同じ感情が襲ってきた。
恐怖でみんなでまとまって行動してたんだけど、なにも起きないんだよ。音も視線もない。
そのせいかAは調子に乗り始めた。それにつられてBもCも俺も気が緩んだ。
みんなビクビクせず進むようになって、なんなら別行動し始めた。
建物の中は狭かったから迷子になることはなかった。俺が確か三階を見てるときに下の階から「わ!」って脅かす声が聞こえた。Aの声だ。
俺も二階に行きAとCと合流、Bは強がりだったようで体調を崩し車で待機してるらしい。
Cは腰を抜かしたのかAの方を見て座り込んでいる。さすがにAも申し訳けなくなったのか心配してたが、Aが近づいたらすごい速さで逃げてった。
「なにかに憑りつかれた?」Aはそんなことを言っていたが、俺には見えない。
俺らもCの後を追って車に戻ろうと歩く。Aと何気ない会話をしつつ、向かう。ふと足元にCの携帯についてるストラップが落ちてた。
おそらく走ってる途中でほどけたのだろう。「ビビりすぎw」なんて言ってAに見せようと振り返る。俺も見てしまった。
Aを置いて猛ダッシュで逃げる。後ろなんか見ず、出口に向かってとにかく走った。
気づいたら車が見えてた。警戒しながら後ろを見る。Aはいない、恐らくまだ中で歩いているのだろう。























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