最初に異変が起きたのは、隣町の古い墓地だった。
誰かが、“生き返った”と、そう言った。
最初は、ただの噂話だった。
だが、それを笑い飛ばす空気は一晩で消えた。
──死者が戻ってきていた。
戻ってきた者たちは、確かに「それらしく」見えた。
家族を名乗り、戸惑いもなく、生活に戻ろうとした。
言葉も、仕草も、記憶も、寸分違わなかった。
でも、人間は気づく。
“本当にそこにいるはずの何か”が、欠けていることに。
ある少女は、事故死した兄に再会して泣き崩れた。
だが翌朝、彼女の目はくぼみ、口は裂け、声を失っていた。
彼女はその後、一言も喋っていない。
目を見開いたまま、鏡の中の何かを指さし続けているという。
彼らは、“人間だったもの”を完璧に模倣していた。
だが、目だけが違った。
“こちら”を見ていない。
常に、背後や空間の角を、じっと見ている。
まるで、自分の中にいる“誰か”の声を聞いているように。
あるいは、“自分自身”を思い出そうとしているように。
町では、時間の進み方がおかしくなった。
昼なのに、夕方の光。
時計が止まる。
携帯が鳴り続け、開くと通話履歴に死者の名。
夜になると、“音”が消える。
虫も、風も、心臓の鼓動すら聞こえない静寂。
その中でだけ──遠くから足音が聞こえてくる。
引きずるような、腐ったものが地面を撫でる音。
母が戻ってきたのは、その三日後だった。
三年前、火葬まで終えた。
遺影に花を添え、骨を抱いて泣いた。























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