それは水を求めるハリガネムシのように、緩やかな川面を泳ぎながら、水死体から這い出そうとしていた。
非現実の光景に再度放り出された俺たちは、誰も動くことが出来なかった。
ぐちゅ…ぐぐぐっ…ぶちゅッ!!ぶちゅちゅッッ!!!!
1メートル程も伸びた黒髪につづき、肛門を押し拡げるようにひときわ大きな瘤状の物体が括約筋を引き裂きながら排泄された。
それは球根のような…ゴルフボール大の人間の赤ん坊のような小さな顔だった。
顔貌は赤黒く浮腫み、腫れぼったい瞼と、深い闇を湛えた歯の無い口をパックリと開け、まるで驚いたような表情をしていた。
おあああぁん…おああああぁぁぁん…
幼児のような不気味な声を聞いた、、確かに。
でもおかしいよな。そいつの顔は水没してて声なんて聞こえるはずないのに。
そいつは身を捩りながら、ストローみたいな不安定な首、頭部と不釣り合いなほどに小さく貧相な体、萎えたように細く異様に長い腕、親指に似た短い三本の脚を、次々と水中へと放った。
そして一瞬のうちに暗い水の底に消えてしまった。
どれくらい時間がたっただろうか。
友達の一人が「あぁ…」と声を発するまでに日が暮れてしまった。
怖くもあったが、それ以上に厭なものを見たという気持ちが強かった。
その日は皆言葉少なに帰途についた。
次の日も俺たちの誰一人、その話をする奴はいなかった。
その出来事は結局誰にも言わなかった。
言っても信じてもらえないだろうし、早く忘れたかった。
大人に発見された水死体は、普通の水難事故として処理されたようだ。
ところで、ハリガネムシは水の中に棲む生物を媒介に、その生物が陸の昆虫に食べられることで寄生するらしいな。
その話を聞いて以来、実家で出される魚料理は手を付けてない。























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