その空間の中、変化は起きた。
…動いたのだ。
老人が。屍体が。亡骸が。
臨終の寝床から、死体が突然、むくりと起き出したのだ。
だが、その老人の顔色は土気色と蒼白に染まる死者の顔のままだった。
その老人は、何かを探しているかのように顔を周囲に向ける。
その双眸に光は無く、意識があるとは到底思えない。
しかし、その動きは、緩慢であったが自然であり、それが老人の自立的な動きである事を示唆していた。
「う、うわーーーー!」
臨終の寝床から起き出した老人の姿に、叫び声を挙げる家族。
「な、なんだと…?」
死を看取った医師も言葉を失い、周囲の看護師介護士も驚きを隠せなかった。
「蘇生するはずが無い! 確かに、この老人は、死んだはずなんだ! 死人が動くはずがあるものか!」
混乱する医師が言い放つ。
その時、部屋の中にいた一人の男性介護士が、誰に言うでも無く呟いた。
「うわ…。まるでゾンビだよ。気持ち悪いよなぁ。」
と。
吐き気を抑えるように、
口元に手を当てながら、
まるで化け物を見るような目で、
そう呟いたのだった。
…死人が動く。…ゾンビ。
そう呟く介護士の姿と言葉は、医師の脳裏に深く焼き付いた。
…心身ともに疲れ果てていた介護士の、その一言。
それが、社会の歯車を壊すきっかけとなったのだった。
…
当初、この蘇り現象は、死亡を診断した医師の誤診だと思われた。
老人の家族は医師に『藪医者!』『慰謝料を寄越せ!』等の冷たい言葉の数々を放った。

























ストーリーがめっちゃ面白い!
エグい、リアル、本当に怖いのは人間、そして哀しい。
この人の作品毎回恐すぎる