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呪い・祟り

yukiさんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

馘、括リ姫
長編 2025/05/16 14:53 16,281view
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…で、どうなったんだ?
顔を引きつらせながら、言葉も途絶え途絶えになりながら喋るBに、俺は話の先を促す。
「気が付くと、俺は屋敷の外に出されていた。屋敷からどうやって出てきたか覚えてない。」
じゃあ、何もなかったんだな。俺は安心する。
「違う。言っただろう? 呪われたんだよ。
あいつは、俺の顔を何時間も見つめていた。
首を絞めた姿勢のまま、目をそらすこともなく、瞬きすらせず、俺を見つめ続けた。」
俺は息を飲む。
「俺は、身動き一つとれなかった。首から下が切り離されたようだった。目を動かすことも、声を出すこともできなかった。
あいつは、俺を見つめながら、言葉を発し続けていた。
何を喋っているのか最初は殆ど聞き取れなかったが、何度も聞いているうちに、わかってきた。」
背中に冷たい汗が流れる。ひどく不快だ。
「あれは、呪詛の言葉だ。」
呪詛?
「家族を無残に皆殺しにされ、
許嫁の臓物をひきづり出され、
死と復讐に魅入られ、
自ら民を虐殺し、
怨嗟の言葉を刻み続け、
首を括られ殺された数多くの者の、恨みの声だった。
Aはそれを『言葉』にして、俺に囁き続けた。」
恨みの声…。
「呪いの言葉といってもいいかな。あいつは、その『言葉』を使って、呪いを振りまくんだ。」
俺は、丘の森の門にあった石碑の言葉を思い出す。
『呪詛は人の言葉を持って拡散し多くの民を呪うであろう』
「なあ、Cよう。
俺の姿、どう見える。
痩せ細ろえ、あんなに逞しかった腕は血管が浮いて、枯れ木のようだ。
目は窪み、色は濁り、肌は土気色。
髪は白くて、すぐに抜け落ちる。
頬も弛み、歯も抜けて、口の中は血だらけだ。
なあ、C。俺を見て、どう思った?」
それは…。

「まるで、死体みたいだろ?」
そんな事は…。
「メシは食えねえ。
水も飲めねえ。
息苦しくて、
喋るのも辛い。
視界の端には、気づくとあいつの姿が見える。
耳元で、どうしてなんでと囁き続けてる。
視線を感じるんだ。
いつも見られている。
なあ。絶望ってどんな気分か、知ってるか?
死んだ方がマシだ、
そうとしか考えられなくなることだ。」
俺の額に、汗が滲む。
「そして、最後に、俺は首を吊って、
死ぬんだよ。
それが、呪詛の言葉を聞いた、俺の末路だ。」
今すぐに、ここから逃げねばならない!
だが、体が上手く動かない。
「なぁCよぉ。お前にな、伝えたいことがある。」
な、なんだ?
「お前はいいよな。Aに合わなくて。
いや違うか。お前は、Aを見捨てたんだ。
次は、俺も見捨てるんだろ?」
そんな事は…。
「暗くて見えづらいよな。今、明かりを入れるよ。」
そう言って、Bは窓のシーツを取り払う。
明かりが差し込み、俺は部屋を見渡し、ヒッ!っと、初めて声をあげる。
部屋の壁には、びっしりと、文字が書いてある。
己が抱える苦しさ。辛さ。恐ろしさ。
周囲の人間への怨嗟。
死への恐怖。
それらを表す言葉が、壁にびっしり、ところ狭しと書かれている。

壁を見つめ愕然としている俺に、Bは、
「今まで、お前は、俺が刻んだ呪詛の言葉の中に居たんだぜ。
それがどういうことか、解るか?
この言葉は、俺を呪った括リ姫の『言葉』だ。
呪いは、呪詛の言葉を媒介に、感染するんだ。」
…まさか。
「そうさ。お前も、呪われたんだよ。
括リ姫に、な。」
俺は、しばらく呆然とした後、現状を認識する。
そして、視線を感じ、部屋の上の方を見上げる。
うわぁあああああああああああああああ。
俺は悲鳴を上げる。
天井からは、何本もロープが垂れ下がっていた。
そのロープの先は、輪っかに結ばれている。
その一本の先で。
Bが、首を吊っていた。
は?
なんで、Bがそこにいる?
じゃあ、今まで俺の正面で、
今まで俺と話をしていたのは、
誰だ?
俺は、恐る恐る、目線を正面に戻す。
そこには、
「グギ、ノロ…ひひ、ひひヒひひひひひヒひひひひひひひヒひひひひひヒひひ…」
首を軽く横に傾けた姿勢で、
目を見開きニタニタ笑う、
Aがいた。
長い黒髪をダラリと垂らし、
血走った眼で俺を見つめている。
真っ白な白装束をきたAの手元には、
赤茶けた人形が、
Aと全く同じ表情を浮かべて、
ニタニタとしていた。
うわぁあああぁあああああああ!
俺は無様に叫び声を上げながら、Aの、いや括リ姫の笑い声を聞きながら、Bの家から、逃げ出した。

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