「……さみしいの」
「まだ しずんでくれないの……」
証言によれば、“森の奥で、声がする”という。
耳ではなく、身体の奥に触れてくる声。
その囁きを聞いた者は、例外なく森に入り、戻らなかった。
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【4】封じられた神
村は祠ごと、海とともに消された。
地滑りも、移転も、後づけの記録でしかない。
汐凪が最後に入った井戸は、
今では森の奥の低湿地――「潮溜まり」と呼ばれる窪地になっている。
私自身が現地を踏査したところ、
常に水が引かず、どこか潮の匂いがする。海からは遠く離れているにもかかわらず。
かつて浜だった地形に、
人の祈りと神のうねりが絡みついた場所――
それが、「シオナリ様」が今も沈む“底”である。
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【結びに代えて】
神とは、形ではない。
信仰とは、恐れと愛のあいだにある。
汐凪という少女は、
神に選ばれたのではない。
ただ、神に触れられてしまっただけだったのだ。
そして今も、
森のどこかで――誰かを、呼んでいる。
その声は、
潮の気が強い日、浜の風に混じって、確かに聞こえる。
「……なつかしいでしょ」
「もう、忘れたの……?」
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