第一章:海と森のあわい
日が沈みきる数分前の空は、光の名残を惜しむように金と藍の層を織り交ぜていた。
その下で、三人の男たちが海に浮かんでいた。
AとBは波待ちをしながら談笑している。
「なんだかんだで、久しぶりだな」「そうだな、三人揃うのは二年ぶりか?」
――けれど、Cは笑っていなかった。
沖を、見ていた。
その目は何かを見ているようで、何も見ていない。
次の波が来る前に、Cはゆっくりとボードから足を下ろした。
そして、海から上がると、無言で砂浜を歩き始めた。
「……おい、C?」
Aが声をかけた。反応はなかった。
ボードも濡れたスーツもそのまま、Cはそのまま砂丘の向こう――森へと入っていった。
AとBはあわてて追いかけた。
その時点ではまだ、「変なことになった」とは思っていなかった。
Cが体調を崩したとか、何か急に思い出したとか、そんな類の事だと――
だが、森に入った瞬間、空気が変わった。
音が遠い。風もない。
木々の間を縫うような道はなく、ただ鬱蒼とした緑が口を開けていた。
そして、そこには**地図にないはずの“奥行き”**があった。
Cの姿は見えない。
足音も、影も、残っていない。
AとBは何も言わず、ただその場に立ち尽くしていた。
「……なあ、A……」
「ん」
「なんか、波の音、聞こえねぇか……?」
Aは一瞬、聞こえないと答えようとした。
だが、耳を澄ますと――確かにそれはあった。
この森の奥から、潮が満ちるような音が、波打ち際のように、ゆっくりと近づいてくるのだった。
AとBは小走りで引き返した。
森の奥には進まなかった。進めなかった。
戻る途中、振り返ったAは、視界の隅に白い影を見た気がした。























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